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スーパーサイエンスガール

日々科学と格闘する理系高校生達の超絶難解な日常。

無理難題をもちかけられたときに立場を180°コペルニクス転換させる女

「それじゃ、散乱の重要性がよく分かったところで、例の超絶難解な問題を解いて貰おうか」
 俺はホワイトボードをぐるりと反転させて、一宮の眼前に問題を突きつけた。

図1.1
f:id:Dreistein:20140920202753p:plain

超絶難解な問題1:以下の式を導け。ただし、 d\sigma微分断面積、 d\Omega:立体角とする。

{ \displaystyle
\frac{d\sigma}{d\Omega}=\frac{1}{64\pi^2E_{\rm cm}^2}\cdot|M|^2
}

「ふん、こんな問題を解くくらい、私にとってわけもないわ!」
「ほう。大層な自信じゃないか? それなら、早速解いてくれ」
 俺が半ば強引に一宮にマーカーペンを押しつけると、一宮の目が所在なさげにきょろきょろと動き出した。
「ちょ……ちょっと待ってよ」

「なんだ? やっぱり解けないのか?」
 俺は皮肉を言った。
「違うわよ! まだ、心の準備ができてないだけ」
「心の準備? たかだか問題を解くのに、一体なんの準備がいるというんだ?」

「あなたって、ほんとデリカシーのかけらもないわね。私のような繊細な乙女は、問題を解くのに、精神を集中させないといけないの!」
お前のどこが繊細な乙女なんだ? 俺は心の中でつっこみを入れた。
「すると、精神を集中すれば解けるのか?」
「そうともいえるわね」

 そう言うと一宮は、髪を結わえていた黄色いリボンをほどき、両手でリボンをぐるぐるねじり始めた。
「おい、何をするつもりだ?」
「見ればわかるでしょ? 気合いを入れるの!」
「気合い?」

 一宮はねじったリボンを頭に巻いて、ねじりはちまきのように額の橫で大きく結んだ。そして、マーカーペンを左手に持ち、ノートを右手に持つと、ちょうど歌舞伎の役者のように左手を前に大きく伸ばし、両足を大きく踏ん張って床を強く踏みしめる姿勢をとった。

「一宮さん、かっこいいです」
 越野さんが声援をおくる。それに応える一宮の表情は、どういうわけか余裕たっぷりだ。俺は、一宮の全身から放射される強いオーラのパワーを感じて、思わず気圧されそうになった。

 まさかこいつ、本気でこの超絶難解な問題を解くつもりなのか? それともこの絶体絶命の状況を切り抜けるうまい秘策でもあるのか?

「さあ解くわ! 用意はいい?」
 一宮が自信たっぷりにいう。
 俺は、一宮がいったいどんな潜在能力を発揮するのか、半ばどきどきしながら待ち構えた。

 数分間もの沈黙の時間が流れただろうか……。やがて、一宮が威勢のいい口調で啖呵を切った。

「それじゃ、私はノートに書き写して問題を解くから、あなたは問題の中から解答を引き出してくれない?」

「は……? なんだって……?」
 俺は頭の中が真っ白になった。何を言ってるんだこいつは……?

「何をやってるのよ! あんた、問題の中から解答を引き出すこともできないの? ちゃんと解答を引き出さないと、問題が解けないでしょ? あなたがここまで無能だとは知らなかったわ! ほんと、ゾウリムシ未満だわ!」
 一宮がいらついた調子で、俺に罵詈雑言を浴びせかける。俺は思わず、反射的に頭を下げてひたすら謝った。
「すみません、ゾウリムシ未満で……」

……て、何を謝っているんだ俺は!?

 俺は、いつの間にか一宮と立場が180°コペルニクス転換していることに気がついた。そう……俺はこの手法を知っている。

 その昔、今から約600年以上も前、室町幕府の第3代の将軍であった足利義満が、一介の坊主相手に完膚なきまでにやられたのと同じ手法だ。まさか、あれから600年以上もの時を超えて、まさしく同じ罠にこの俺がはめられるとは……なんたることだ! 

 俺は、あまりの理不尽さに、思わず叫び声をあげずにはいられなかった。

お前は一休さんかっ!