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スーパーサイエンスガール

日々科学と格闘する理系高校生達の超絶難解な日常。

2粒子系の散乱の微分断面積の式(質量の寄与を無視できる場合)

散乱の微分断面積:{ \displaystyle \frac{d\sigma}{d\Omega}=\frac{1}{64\pi^2E_{\rm cm}^2}\cdot\frac{|\bf{k}|}{|\bf{p}|}\cdot|M|^2}

「散乱の微分断面積の式は以上ですが、この問題の場合、電子 e^-陽電子 e^+およびミュー粒子 \mu^-・反ミュー粒子\mu^+の運動エネルギーがそれらの質量m, m^\primeよりもずっと大きいものと仮定しているため、Einsteinの関係 E_p=\sqrt{{|\bf{p}|}^2+m^2}, E_k=\sqrt{{|\bf{k}|}^2+m^{\prime2}}から E_p\simeq|{\bf{p}}|, E_k\simeq|{\bf{k}}|がいえます。また、粒子の散乱の前後でエネルギーが保存されるため、 E_p=E_k=Eとして、 |{\bf{p}}|=|{\bf{k}}|=Eの関係が成り立ちます。それゆえ、 \frac{|{\bf{k}}|}{ |{\bf{p}}|}=1となることから、結局、問題の式を導き出すことができます」

超絶難解な問題1:以下の式を導け。ただし、 d\sigma微分断面積、 d\Omega:立体角とする。

{ \displaystyle
\frac{d\sigma}{d\Omega}=\frac{1}{64\pi^2E_{\rm cm}^2}\cdot|M|^2
}

図1.1
f:id:Dreistein:20140920202753p:plain

「以上で、証明を終わります。ご静聴ありがとうございました」
 石原が慇懃に頭を下げる。俺たちは拍手をした。

 一宮が感想を漏らした。
「なかなか手強い問題だったわね。この問題を1つ解くだけで、まるまる30日も使ってしまったじゃない。この私をここまで追い詰めるなんて、たいした問題だわ」
 まるでドラゴンクラスのラスボスと決死の激闘を繰り広げた挙げ句、息も絶え絶えになりつつも間一髪でようやく倒した戦士のような表情で一宮が言った。

お前は何もやってねーだろ!

「仕方ないですよ。この問題を解くために、自然単位系、重心系、立体角、散乱断面積、微分断面積、ディラックのブラケット記法、生成演算子、S-演算子、S-行列、散乱振幅、ローレンツ不変性、不変規格化、4元運動量、フェルミ粒子、反交換関係、ディラックデルタ関数極座標変換、アインシュタインの関係、散乱確率といった知識が少なくとも必要でしたから、時間がかかるのも当然です」
「そうですね」
 越野さんが石原に同意しながら言った。
「でも、逆に考えれば、これらの知識をひとつひとつ順を追って積み重ねていけば、どんな超絶難解な問題であっても理解できなくはないんですね」

「俺は、この分母の「64」という数字は、電子 e^-陽電子 e^+、ミュー粒子 \mu^-と反ミュー粒子 \mu^+の4つの粒子の組み合わせ数と関係があるものと思ったんだが」
 俺の言葉に、石原はにこやかに微笑んで答えた。
「式の導出をみてもわかるように、分母の 64\pi^2という数字は、もっぱら不変規格化定数に起因します。それゆえ、そもそも相対性理論を理解していないと導くことができません」
「なるほど。だが、一見、量子力学の問題だと思わせておいて、実は相対性理論の知識を駆使しないと全く解けないという事実は、どこか異常だとは思わないか? しかもこの式は、「Chapter1」の一番はじめに登場する式(1.1)だぞ」
「しょっぱなから読者をどん底に突き落とすところなんか、まさしく鬼畜なテキストといえるかもしれませんね。まあ、アメリカの大学院でも用いられているテキストですから、これくらいはむしろ想定の範囲内といえるんじゃないでしょうか」
「でも、このテキストって、まだ始まったばかりなんですよね。はたして、最後まで読み終えられるのでしょうか」
 越野さんが不安そうな顔で言う。越野さんは、最後までこのテキストを読み切るつもりのようだ。越野さんの言葉に俺は戦慄した。

 石原が一宮のほうを向いて言った。
「それじゃ、約束通り、一宮さんの愛のこもった贈り物をいただきます」
「私そんなこと言ったかしら?」
 とぼける一宮に石原が苦笑した。
「またまた、ご冗談を。はっきりこの耳で聞きましたよ。それに、ここには3人も証人がいますしね」
 そういって石原は、俺と越野さんと武者さんをざっと見回した。
 一宮が観念したような表情になる。
「わかったわ。私の愛にあふれた贈り物を受け取るといいわ」
 そういって、一宮は一枚の写真を取りだし、石原に手渡した。その写真は、唇に人差し指を当ててキッスを投げかけるバニーガール姿の一宮を撮ったものだった。
「なんですか、これは?」
 石原の表情が一瞬固まる。
「なにって、私の愛のこもった贈り物に決まってるじゃない。大切にしてよね。その写真、プレミアものよ。私のファンクラブでは、1枚30万円くらいで取引されているんじゃないかしら?」
 一宮のバニーガール姿の写真が1枚30万円とか、いくらなんでもありえないだろ。俺は心の中で激しくツッコミを入れた。
「そうですか。それなら丁重に取り扱わせていただきます」
 そういって、石原は大切そうに写真を鞄の中にしまい込んだ。いつもより1割増しで口元が緩んでいる。どうせエロい目的に使うんだろ、お前は。