スーパーサイエンスガール

日々科学と格闘する理系高校生達の超絶難解な日常。

量子力学とは

「それでは第2章を始めます」
 第2章の輪講は、適当なところまで越野さんが担当することになった。
「ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」
 お辞儀した瞬間、越野さんの豊満な胸の谷間が垣間見えた。少なくともEカップはあるだろうか。女子高生のバストとはとても思えないな。さすがは我が校始まって以来のスーパーアイドルだけのことはある。俺の脳は、さきほど両目に焼き付けた映像をしきりに吟味していた。

「第2章からは、いよいよ『場の量子論』について学ぶみたいです」
 開始早々、一宮が手を上げた。
「いきなり質問で悪いんだけど」
「なんでしょうか、一宮さん」
「場の量子論って、量子力学とどう違うのよ?」
 えらく初歩的な質問だな。輪講の場で、ここまで初歩的な質問をするのは、世界広しといえど、一宮くらいじゃないか?
 これが大学や大学院の研究室のゼミなら、おそらく初歩的な事項を分かっていることを前提に、先へ先へと進んでいくのにちがいない。輪講の開始早々、学生がこんな初歩的な質問をすれば、周囲から笑われ、院生や助教から説教されて終わるのがオチだろう。

 越野さんは少し考え込んだ。
「そうですね。一言で言えば、量子力学は、分子、原子、素粒子など微視的なミクロの世界の対象を扱う力学です」

量子力学:分子、原子、素粒子など微視的(ミクロ)な対象を扱う力学

「それじゃ、どうしてミクロの対象を扱う力学に『量子』って言葉が付くのよ?」
量子力学(quantum mechanics)の『quantm』は、もともと英語で『量、分量』という意味があります。また、量子の『子』という言葉は、原子、分子など『小さなもの、微小な単位』につける言葉です。それゆえ、『量子』とは、『小さな量、微小な量の単位』という意味があります」

量子:小さな量、微小な量の単位

「量って、何の量よ?」
「ここでの『量』は、物質の量ではなくて、『エネルギー量』のことです。物質の量に、原子や分子のような単位があるように、エネルギー量にも単位があることがプランクによって発見されたことが、量子力学誕生の発端となりました。このような微小なエネルギー量の単位を『エネルギー量子』と呼び、この『量子』という言葉が量子力学の名称の由来となりました」

エネルギー量子(energy quantum):微小な光のエネルギー量の単位

「巨視的(マクロ)な対象では、エネルギーは連続的に変化するように思われますが、実際には、エネルギーは、エネルギー量子 h\nuを単位として不連続(とびとび)な値をとることが知られています」
「光のエネルギーに単位?」
 一宮はいかにも腑に落ちない様子だ。
「例えば、テレビゲームなんかで、エネルギー弾をとばして敵を攻撃するゲームがありますよね。このエネルギー弾は、ぱっと見、なめらかに見えますが、ミクロの領域まで拡大してみると、ちょうど下の図のように、画素(ピクセル)を最小単位としていて、画素よりも小さな単位に分割できないことがわかります」

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photo credit: Oltar via photopin cc

「光のエネルギーにおいて、この画素に相当する単位が、エネルギー量子 h\nuなのです。プランクは黒い物体を熱したときに放射される光を研究し、光のエネルギーの分布を実験結果と合うように説明するには、光のエネルギーが h\nuを単位として不連続(とびとび)な値をとらなければならないことを発見したのです。ここで、 hプランク定数と呼ばれ、量子力学では、あらゆる方程式にこのプランク定数が現れます」

エネルギー量子(エネルギーの単位): h\nu
h:プランク定数 6.626\times10^{-34}[{\rm m}^2{\rm kg/s}]
 \nu:光の振動数(Hz)

「でも、エネルギーに単位があるなんて、いまいち実感できないわね?」
「ゲーム画面の画素は、いくら小さいといっても、虫眼鏡を使えば確認することができますよね。でも、プランク定数 hの値は、 6.626\times10^{-34}=0.0000000000000000000000000000000006626[{\rm m}^2{\rm kg/s}]という、小数点の後に0が33個も並ぶような、とても小さな値のため、私達が暮らす日常生活のスケールでは、光のエネルギーの単位を実感することができないのです」


プランク定数 h 6.626\times10^{-34}=0.0000000000000000000000000000000006626[{\rm m}^2{\rm kg/s}]

量子力学は、このプランク定数 hの影響が顕著にあらわれるような微視的(ミクロ)なスケールの現象を扱う力学ということもできます」

量子力学プランク定数 hの影響が顕著にあらわれるような微視的(ミクロ)なスケールの現象を扱う力学

「このようなミクロの世界では、エネルギー量が不連続(とびとび)になるほか、粒子の位置と運動量を同時に正確に測定することができない(不確定性原理)とか、1個の粒子が波のように振る舞うなど、私達が住む巨視的(マクロ)な世界とは全く異なる振る舞いをすることが知られています。量子力学では、このような微視的(ミクロ)なスケールの振る舞いを研究する学問なのです」