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スーパーサイエンスガール

日々科学と格闘する理系高校生達の超絶難解な日常。

完備関係式とは

「ここで、非相対論的な自由粒子を例に、この振幅 U(t)の具体的な値を実際に計算してみましょう。非相対論において、質量 m、運動量 p自由粒子の運動エネルギーは、 E=p^2/2mとかけるため、この式をハミルトニアンハミルトニアンは、一般化座標であらわしたエネルギー)に代入すると、次のようになります」

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
U(t)&=&\langle \bf{x}\mid e^{-i(\bf{p}^2/2m)t} \mid \bf{x}_0\rangle\\
&=&\int\frac{d^3p}{(2\pi)^3}\langle \bf{x}\mid e^{-i(\bf{p}^2/2m)t} \mid\bf{p}\rangle\langle\bf{p}\mid \bf{x}_0\rangle
\end{eqnarray}
}

「ここで、指数関数 e^{-i(\bf{p}^2/2m)t} とケットベクトル \mid \bf{x}_0\rangleとの間に、積分による完備関係式、 1=\int \frac{d^3p}{(2\pi)^3}\mid\bf{p}\rangle\langle\bf{p}\midを代入しました」
「完備関係式って何よ?」
 一宮が気だるそうに顔をしながら質問した。いまだに片手でシャープペンをいじり回している。
「完備関係式は、ケットベクトルの展開に関係する式です。例えば、任意のケットベクトル \mid {\psi}\rangleは、完全正規直交系 |\phi_n\rangleを用いて、次のように展開することができます」

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\mid {\psi}\rangle=\Sigma_{n}a_n \mid {\phi_n}\rangle
\end{eqnarray}
}

「ここで、a_nは展開係数です」
「展開?」
 一宮が首を傾げた。いまいちピンと来ないらしい。そこで、越野さんはホワイトボードに図を描き始めた。

「任意のベクトル \bf{V}は、下図のように、直交座標の各座標軸の方向に伸びる単位ベクトル \bf{e}_x, \bf{e}_y, \bf{e}_zと係数 a_x, a_y, a_zの積の和 {\bf{V}}=\Sigma_{\{n=x, y, z\}}a_n{\bf{e}}_nの形に書きあらわすことができます」

f:id:Dreistein:20141213084736p:plain

「このように、任意のベクトル \bf{V}を完全正規直交系(ここでは、直交する単位ベクトル \bf{e}_x, \bf{e}_y, \bf{e}_z)の和の形に書き表すことを『展開』と呼びます」

展開:任意のベクトル \bf{V}を完全正規直交系(ここでは、直交する単位ベクトル \bf{e}_x, \bf{e}_y, \bf{e}_z)の和の形に書き表すこと

「上の図において、展開係数 a_nは、任意のベクトル \bf{V}の各成分(a_x, a_y, a_z)に等しく、これらはベクトルの内積を用いてa_n=\bf{e_n}\cdot\bf{V}のようにあらわすことができます」
「どうして展開係数の成分(a_x, a_y, a_z)がベクトルの内積になるのよ?」
「なぜなら、ベクトル \bf{V}とベクトル {\bf{e}}_x内積 {\bf{e}}_x\cdot{\bf{V}}は、単位ベクトル \bf{e}_xに向かって光を当てたときに射影したベクトル \bf{V}の成分の大きさ a_xに相当するからです」

f:id:Dreistein:20141213095312p:plain

「また、上の関係は、任意のケットベクトル \mid {\psi}\rangleの展開についても、同様に成り立ちます。つまり、任意のベクトル \bf{V}を任意のケットベクトル \mid {\psi}\rangleに置き換え、各座標軸の方向に伸びる単位ベクトル \bf{e}_nを正規直交系 \mid \phi_n\rangleに置き換え、任意のベクトル \bf{V}の各座標軸の成分 a_n={\bf{e}}_n\cdot{\bf{V}}をケットベクトル \mid {\psi}\rangleの展開係数a_n=\langle\phi_n \mid\psi\rangleに置き換えると、任意のケットベクトル \mid {\psi}\rangleの展開式を得ることができます」

 {\bf{V}}=\Sigma_{\{n=x, y, z\}}a_n{\bf{e}}_n=\Sigma_{\{n=x, y, z\}}({\bf{e}}_n\cdot{\bf{V}}){\bf{e}}_n=\Sigma_{\{n=x, y, z\}}{\bf{e}}_n({\bf{e}}_n\cdot{\bf{V}})
 ↓
任意のベクトル \bf{V}→任意のケットベクトル \mid {\psi}\rangle
各座標軸の方向に伸びる単位ベクトル \bf{e}_n→完全正規直交系 \mid \phi_n\rangle
任意のベクトル \bf{V}の各座標軸の成分 a_n={\bf{e}}_x\cdot{\bf{V}}→展開係数a_n=\langle\phi_n \mid\psi\rangle
 ↓
 \mid {\psi}\rangle=\Sigma_{n}a_n \mid {\phi_n}\rangle=\Sigma_{n}\langle \phi_n\mid\psi\rangle\mid {\phi_n}\rangle=\Sigma_{n} {\mid\phi_n}\rangle\langle \phi_n\mid\psi\rangle

「ここで、上の展開式が任意のケットベクトル \mid {\psi}\rangleで成り立つとき、上式の両辺からケットベクトル \mid {\psi}\rangleを除いた次の式も成り立つものと考えることができます」

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
完備関係式:1=\Sigma_{n}\mid {\phi_n}\rangle \langle \phi_n\mid
\end{eqnarray}
}

「この関係式を『完備関係式』と呼びます。ここでは、Σの和の形で完備関係式を表しましたが、位置空間や運動量空間などの連続的な空間を考える場合は、完備関係式は、テキストのように積分形であらわされます」

積分による完備関係式
{ \displaystyle
1=\int d^3p \frac{1 }{(2\pi)^3}\mid\bf{p}\rangle\langle\bf{p}\mid
}

「ただし、3次元空間の積分形であらわした場合、フーリエ変換と同様に、 \frac{1}{(2\pi)^3}の規格化因子がつくことに注意してください」