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スーパーサイエンスガール

日々科学と格闘する理系高校生達の超絶難解な日常。

光円錐とは

相対論的な粒子の確率振幅U(t)
{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
U(t)&=&\frac{1}{2\pi^2{|\bf{x}}-{\bf{x}}_0|}\int_0^\infty dp\, p\sin{(p|{\bf{x}}-{\bf{x}}_0|)}e^{-it\sqrt{p^2+m^2}}\\
\end{eqnarray}
}

「次に、 x^2\gg t^2のときの、U(t)の振る舞いを見てみます。ここで、 x^2\gg t^2は、光円錐(こうえんすい、light cone)のずっと外側に位置する領域を示します」
「コウエンスイってなによ?」
 一宮が質問する。

「光円錐とは、4次元のミンコフスキー空間において、光の道筋を表す面です。観測者が存在する時点を原点にとり、空間および時間座標をx, y, z, tとしたとき、光の道筋は、 (ct)^2-x^2-y^2-z^2=0であらわされます。ミンコフスキー空間は4次元なので、実際に図に描くことはできませんが、空間を2次元とすれば、下図のように光円錐は2つの円錐の頂点同士を合わせたような形になります」

f:id:Dreistein:20141230070038p:plain

「上の図において、原点Oより上半分の部分が未来の領域、下半分の部分が過去の領域を表します。また、原点Oに対して時間軸を含む光円錐の内部の領域を時間的(time-like)領域と呼び、空間軸を含む光円錐の外部の領域を空間的(space-like)領域と呼びます。原点Oを通る光のルートは、光円錐面に沿った直線であり、原点Oを通る物体のルート(世界線)は、時間的領域内にあります。また、世界線Oの状態は、過去の光円錐の内部の状態だけで決定され、光円錐の外部の状態によりません」

光円錐の内部:時間的(time-like)領域
光円錐の外部:空間的(space-like)領域

「ここで、光円錐の内部の領域では、 (ct)^2-x^2-y^2-z^2 > 0が成り立つことから、 c^2>(x^2+y^2+z^2)/t^2=v^2 がいえます。これから光円錐の内部の時間的領域内の粒子の速度 vは常に光速よりも遅い( v<c)ことがわかります。同様に、光円錐の外部の空間的領域は、超光速の領域であることがわかります」

光円錐の内部(時間的領域):光速よりも遅い領域
光円錐面:光速の領域
光円錐の外部(空間的領域):超光速の領域

「光円錐の内部の時間的領域は、その名が示すとおり、時間が支配していて、粒子の世界線は常に過去から未来へと流れていきます。でも、光円錐の外部の空間的領域では、このような因果律が成り立っていません」

 一宮は、嬉しそうに瞳を輝かせた。
「ということは、光速を超えることができれば、因果律を超えることができる、つまり、タイムマシンをつくることができるというわけね」

光速を超えることができれば、因果律を超えることができる
 ↓
タイムマシンをつくることができる

 そう言うと思った。俺は、一宮の「妄想」がまわりに拡散して手に負えなくなる前に、あらかじめ釘を刺しておくことにした。
「言っておくが、アインシュタイン特殊相対性理論によれば、エネルギーをもった物体は光速を超えることはない。だからタイムマシンをつくることは不可能だと思うがな」
 一宮は、俺を睨み付けた。
「そんなの分からないじゃないの! あんたって、どうしてそういつも『不可能』って決めつけるのよ? 私に恨みでもあるわけ?」
「そういう主観的な問題じゃない。俺はあくまで、ありのままの事実を述べただけだ」
「『ありのままの事実』って、理系人間って、どうしてそういう考え方をするのかしら? ほんと意味不明よね」
 一宮は唇を歪め、馬鹿にするような顔つきで俺を舐め回すように見た。俺は思わず拳を握りしめた。

「ちょっと、2人とも落ち着いてください」
 俺と一宮の間を流れる空気が嫌悪な雰囲気になりそうなのを察してか、越野さんが慌てて間に入ってきた。
「実は、エネルギーをもった粒子が光円錐の外部においても存在できるかどうかは、計算で確かめることができます」
「なんだって?」
「マジで?」
 俺と一宮がほぼ同時に越野さんの顔を見ると、越野さんは頷いた。
「このテキストでは、停留値法(method of stationary phase)を用いて、光円錐の外部の粒子の確率振幅を計算するそうです」