スーパーサイエンスガール

日々科学と格闘する理系高校生達の超絶難解な日常。

位相とは

相対論的な粒子の確率振幅U(t)
{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
U(t)&=&\frac{1}{2\pi^2{|\bf{x}}-{\bf{x}}_0|}\int_0^\infty dp\, p\sin{(p|{\bf{x}}-{\bf{x}}_0|)}e^{-it\sqrt{p^2+m^2}}\\
\end{eqnarray}
}

「それでは、光円錐の外側の領域に粒子が存在するとき( x^2\gg t^2)の、U(t)の振る舞いを停留値法(method of stationary phase)で求めるため、sin関数の変数pxと、指数関数の iを除いた変数 -t\sqrt{p^2+m^2}とを合わせた位相関数 f(p)=px-t\sqrt{p^2+m^2}を考えます」

「ちょっと分からないんだけど」
 突然、一宮が手をあげた。
「何でしょうか、一宮さん」
「あなたたち理系人間って、さっきから位相、位相って、当たり前のように言うけど、そもそも『位相』って何よ?」
 越野さんは一瞬戸惑ったような顔をした。あまりに基本的すぎて、かえって答えにくいようだ。ここまできたら、もはや嫌がらせのレベルだな。

「位相という言葉は、たしかに分かりにくいですね。こういうときは、日本語で考えるよりも、英語でイメージしたほうがわかりやすいです。英語において、位相は、『phase』と呼びます」
「フェーズ? 『第1フェーズ』とか『第2フェーズ』とかのフェーズ?」
 越野さんは頷いた。
「フェーズは、『時間とともに移り変わりゆく現象において、その変化の段階や局面』という意味があります」

フェーズ(phase):時間とともに移り変わりゆく現象において、その変化の段階や局面

「例えば、月の満ち欠け(月相)は、英語では『moon phase』または『lunar phase』と呼ばれますが、moon phaseとは、太陽からの光を受けて月面の輝く部分が移り変わっていく現象において、その段階(フェーズ)を表したものです。たとえば、月の面は、新月(第1フェーズ)、繊月(第2フェーズ)、三日月(第3フェーズ)……といったように、フェーズごとにその状態が移り変わっていき、一定の周期(約29.53日)ごとに、また元の新月(第1フェーズ)に戻るというわけです」

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photo credit: amycgx via photopin

月の満ち欠け(月相)(moon phase)の例:
第1フェーズ:新月
第2フェーズ:繊月(せんげつ)
第3フェーズ:三日月(みかづき)
第7/8フェーズ:上弦(じょうげん)
第10フェーズ:十日夜 (とおかや)
第13フェーズ:十三夜(じゅうさんや)
第14フェーズ:小望月(こもちづき)
第15フェーズ:十五夜(じゅうごや)
第16フェーズ:十六夜(いざよい)
第17フェーズ:立待月(たちまちづき)
第18フェーズ:居待月(いまちづき)
第19フェーズ:寝待月(ねまちづき)
第20フェーズ:更待月(ふけまちづき)
第22/23フェーズ:下弦(かげん)
第26フェーズ:有明月(ありあけづき)
第29/30フェーズ:晦(つごもり)
 ↓
一定の周期(約29.53日)ごとに元の新月(第1フェーズ)に戻る

「これら新月、繊月、三日月などのフェーズは、月の満ち欠けの状態を表す『指標』であるともいえます。私達は、『三日月』という言葉から、その月の満ち欠けの状態をすぐにイメージすることができますよね。このように、時間とともに変化する状態において、その段階(フェーズ)を表す指標となるのが、位相(phase)の大まかなイメージです」

位相(phase):時間とともに変化する現象において、その変化の段階(フェーズ)を表す指標となるもの

「月の満ち欠けと同様に、波の状態についても、同じような指標を定めることができます。ただし、1夜ごとにカウントが可能な月の満ち欠けと違って、波の状態は時間とともに連続的に変化するため、波の変化の段階(フェーズ)を表す指標として、同じように連続的な『角度』を用いる点が異なります」
「ちょっと待ってよ! 波の状態の変化と角度と、一体何の関係があるのよ?」
 一宮が突っかかるようにいう。

「これを理解するために、ここで、時計の針を想像してみてください。ただし、この時計は、普通の時計と違って短針がなく、長針しかありません。また、この長針は、右回りではなく左回りに回転します。さらに、この長針はかなり厚みがあって、右側に紙を置いた上で、左側から長針に光を当てると、紙の上に長針の影がうつるものとします」

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「上の図に示すように、時計の針を左回りに回転させると、紙にうつった針の影も上下に動きます。この針の影の上下の動きを時間とともにプロットしていくと、波が現れるのです。そして、時計の針がちょうど一回転すると、針の影がつくる波も一周して元に戻ります。ここで、時計の針が水平方向となす角度 \thetaと、針の影がつくる波の上下の動きとを比較すると、波の上下の動きは、ちょうど角度 \thetaに対応していることが分かります」

回転する時計の針の影がつくる波の上下の動きは、ちょうど時計の針の角度 \thetaに対応している

「これから、時計の針の角度 \thetaが、波の状態の変化の段階(フェーズ)を表す指標として使えることが分かります。この時計の針の角度 \thetaに相当するものが、波の『位相』と呼ばれるものであり、三角関数 \sin{\theta}や、指数関数e^{i\theta} \thetaに相当します。それゆえ、波の位相は、『周期的に変化する波の状態において、1周期内の進行の段階(フェーズ)を表すもの』とイメージするといいです」

波の位相:時間とともに周期的に変化する波の状態において、1周期内の進行の段階(フェーズ)を表すもの(角度 \theta
(例えば、三角関数 \sin{\theta}や、指数関数e^{i\theta} \thetaに相当)

「位相は、波動関数や電磁波、交流波など、時間とともに周期的に変化する波の状態において、その変化の段階を表す指標として、さまざまな場面で用いられます。物理や数学でよく使われる重要な概念なので、このイメージを大切にしてください」