読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

スーパーサイエンスガール

日々科学と格闘する理系高校生達の超絶難解な日常。

ハミルトニアンとは

ラグランジアンLを用いると、ハミルトニアンHは、 H\equiv\Sigma p\dot{q}-Lと表されます」
ハミルトニアンって何よ?」
ハミルトニアンは、一言で言えば、系全体のエネルギーを特定の座標系によらない一般化座標で表したものです」

ハミルトニアン
系全体のエネルギーを特定の座標系によらない一般化座標で表したもの

「なんで H\equiv\Sigma p\dot{q}-Lがエネルギーになるのよ?」
「例えば、3次元の直交座標系(デカルト座標系)において、粒子の質量をm、位置エネルギーをVとしたとき、ラグランジアンLは、次のように書くことができます」

ラグランジアン
{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
L&=&\frac{m}{2}(\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2)-V(x, y, z)
\end{eqnarray}
}

「一方、 H\equiv\Sigma p\dot{q}-Lの第1項の和の中身 p\dot{q}は、例えばx方向において、運動量 p=mv=m\dot{x}、座標 q=x となることから、 p\dot{q}=m\dot{x}^2となることが分かります。それゆえ、1粒子系のハミルトニアンHは、直交座標では次のように書くことができます」

ハミルトニアン
{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
H&=&\Sigma p\dot{q}-L\\
&=&m(\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2)-\bigg[\frac{m}{2}(\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2)-V(x, y, z)\bigg]\\
&=&\frac{m}{2}(\dot{x}^2+\dot{y}^2+\dot{z}^2) +V(x, y, z)\\
&=&(運動エネルギー)+(ポテンシャルエネルギー)\\
&=&(系全体のエネルギー)
\end{eqnarray}
}

「このように、ハミルトニアンHは、系全体のエネルギーに相当するのです」
「系全体のエネルギーを表しているのなら、『ハミルトニアン』なんて呼ばずに、素直に『エネルギー』って呼べばいいじゃないの?」
 一宮は憤慨したように唇を尖らせた
ハミルトニアンは、運動エネルギーが一般化座標 qの時間微分 \dot{q}の2乗の形で書ける場合にのみ、系の全エネルギーを表します。だから、必ずしもエネルギーを表すわけではありません」

ハミルトニアンは、運動エネルギーが一般化座標 qの時間微分 \dot{q}の2乗の形で書ける場合にのみ、系全体のエネルギーを表す
 ↓
ハミルトニアンは、必ずしも系全体のエネルギーを表すわけではない

 一宮は、まだすっきりしないのか、腑に落ちないような表情をしていた。
「根本的な疑問なんだけど、そもそもどうして、『ハミルトニアン』なんて妙ちきりんなものを考えるのよ? 『一般化エネルギー』とか、もっと分かりやすい呼び名にすればいいじゃないの!」
 越野さんは少し困り顔になった。

ハミルトニアンが生まれた背景というものがあるので、名前を変えるのは難しいと思います」
ハミルトニアンが生まれた背景?」
 越野さんは頷いた。
ハミルトニアンが生まれる前、エネルギーは、直交(デカルト)座標や極座標など、いろいろな座標系で表現されていました。でも、エネルギーを特定の座標系で表現すると、エネルギー式の形が、座標系によって大きく異なってしまうという問題が起こります」

エネルギーの式の形は座標系によって大きく異なる

「これはちょうど、『cm』を単位とする物差しと、『inch』を単位とする物差しと、『一寸』を単位とする物差しで、同じ棒の長さを図ったときに、物差しの種類によって異なる値が出てしまうのと同じようなことなのです」

『cm』を単位とする物差し
『inch』を単位とする物差し
『一寸』を単位とする物差し
 ↓
棒の長さが同じでも、物差しの種類によって異なる値が出てしまう

「つまり、棒が『エネルギー』で、物差しが『座標』というわけね」
「物差しの種類によって、棒の長さが変わるわけではないように、座標系の種類によって、エネルギーそのものが変わることはありません。逆に考えれば、座標系によってエネルギー式の形が大きく変わってしまうということは、そのエネルギー式は、エネルギーの本質を表していないことになります」

座標系の種類によって、エネルギーそのものが変わることはない
 ↓
座標系によってエネルギー式の形が変わるなら、そのエネルギー式はエネルギーの本質を表していない

「これは、エネルギーに限らず、ニュートン運動方程式などの運動の法則にもいえることです。そこで、エネルギーや運動の法則を、座標系によらない形で表現するために、ラグランジュやハミルトンなどの18〜19世紀の数学者達が、直交座標系や極座標系を一般化した『一般化座標』というものを考え、そのような一般化座標系に基づいた力学を作りました。これが『解析力学』のそもそもの始まりです」

ラグランジュハミルトニアンなどの18〜19世紀の数学者達
エネルギーや運動の法則を座標系によらない形で表現するために、直交座標系や極座標系を一般化した『一般化座標』というものを考えた
 ↓
一般化座標系に基づいた力学(解析力学)が誕生した

「一般化座標に基づいて立てられた運動方程式は、解析力学の創始者である数学者ラグランジュの名前にちなんで『ラグランジュの運動方程式』と呼ばれ、これが直交座標系に基づいて立てられたニュートン運動方程式に対応します。同様に、エネルギー式も特定の座標系によらない形で表現することができ、解析力学のもう一人の創始者である数学者ハミルトンの名前にちなんで『ハミルトニアン』と呼ぶのです。これが、ハミルトニアンの名前の由来です」

直交座標系         一般化座標系(特定の座標系によらない一般的な座標系)
ニュートン運動方程式 → ラグランジュの運動方程式
エネルギー式      → ハミルトニアン

ラグランジュの運動方程式ハミルトニアンは、座標系の種類によらない一般的な形をしているため、直交座標系に基づいて立てられたニュートン運動方程式やエネルギーの式よりも、運動の法則やエネルギーの本質を表しているものと考えられます」
「つまり、直交座標系や極座標系で表されたエネルギーの式を、特定の座標系によらない、より本質的な形に書き換えたものがハミルトニアンというわけね」
 一宮は納得したように大きく頷いた。