生成・消滅演算子による積分計算の一例(失敗例)
「この生成・消滅演算子の式を用いて、を計算してみます」
「ここで、の関係を用いました」
ここまで来て、越野さんは、計算式を書いていた手を止めて、ほとほと困ったような顔をした。
「あれ、おかしいですね。の関係式が成り立つかどうか確かめてみたかったのですが、この式からは、どうしても導くことができないです」
「導くことができないって、ダメじゃないの!」
一宮が大声を出して叱責する。越野さんは悔しそうに唇を噛みしめて俯いた。
「すみません……」
「謝って済むことじゃないでしょ? どうしてくれるのよ!」
お前は何もやってないのに、どうしてそこまで偉そうになれるんだ? ひょっとして、異常人格か?
一宮はため息をついた。
「でも、計算が行き詰まってしまったのなら、どうしようもないわね。なんかテキストの著者に負けたみたいで腹立たしいけど」
「仕方ありません。とりあえず、先へ進みましょう。機会があれば、いずれこの問題が解ける日も来ると思います」
石原がにこやかに微笑みながら、現実的な提案をした。
「そうするか。所詮、高校生が場の量子論のテキストを読み進めること自体、無理があったんだ」
俺は一宮への皮肉をたっぷり込めて同意した。
「行き詰ったときは、もう一度、原点に戻って考えてみるといい」
どこからともなく澄んだ声が響いて、俺たちはあたりを見回した。
「誰だ?」
ディラックの量子力學を小脇に抱えた小柄な少女がそこにいた。
武者さんだった。