スーパーサイエンスガール

日々科学と格闘する理系高校生達の超絶難解な日常。

生成・消滅演算子による積分計算の一例(失敗例)


{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
a_{\bf{p}}^\dagger&=&\int d^{(3)}x\bigg(\sqrt{\frac{\omega_{\bf{p}}}{2}}\phi({\bf{x}})-i\sqrt{\frac{1}{2\omega_{\bf{p}}}}\pi({\bf{x}})\bigg)e^{i{\bf{p}\cdot\bf{x}}}\\
a_{\bf{p}}&=&\int d^{(3)}x\bigg(\sqrt{\frac{\omega_{\bf{p}}}{2}}\phi({\bf{x}})+i\sqrt{\frac{1}{2\omega_{\bf{p}}}}\pi({\bf{x}})\bigg)e^{-i{\bf{p}\cdot\bf{x}}}.
\end{eqnarray}
}

「この生成・消滅演算子の式を用いて、 \int d^{(3)}p a_{\bf{p}}a_{-\bf{p}}を計算してみます」


{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\int d^{(3)}pa_{\bf{p}} a_{-\bf{p}}
&=&\int \int d^{(3)}p d^{(3)}x\bigg(\sqrt{\frac{\omega_{\bf{p}}}{2}}\phi({\bf{x}})+i\sqrt{\frac{1}{2\omega_{\bf{p}}}}\pi({\bf{x}})\bigg)e^{-i{\bf{p}\cdot\bf{x}}}\\
&\times&\int d^{(3)}x’\bigg(\sqrt{\frac{\omega_{-\bf{p}}}{2}}\phi({\bf{x}’})+i\sqrt{\frac{1}{2\omega_{-\bf{p}}}}\pi({\bf{x}’})\bigg)e^{i{\bf{p}}\cdot{\bf{x}’}}\\
&=&\int \int d^{(3)}p d^{(3)}x\bigg(\sqrt{\frac{\omega_{\bf{p}}}{2}}\phi({\bf{x}})+i\sqrt{\frac{1}{2\omega_{\bf{p}}}}\pi({\bf{x}})\bigg)e^{-i{\bf{p}\cdot\bf{x}}}\\
&\times&\int d^{(3)}x’\bigg(\sqrt{\frac{\omega_{\bf{p}}}{2}}\phi({\bf{x}’})+i\sqrt{\frac{1}{2\omega_{\bf{p}}}}\pi({\bf{x}’})\bigg)e^{i{\bf{p}}\cdot{\bf{x}’}}
\end{eqnarray}
}

「ここで、 \omega_{-\bf{p}}=\omega_{\bf{p}}の関係を用いました」

 ここまで来て、越野さんは、計算式を書いていた手を止めて、ほとほと困ったような顔をした。
「あれ、おかしいですね。 \int d^{(3)}p a_{\bf{p}}a_{-\bf{p}}=\int d^{(3)}pa_{\bf{p}}a_{\bf{p}}の関係式が成り立つかどうか確かめてみたかったのですが、この式からは、どうしても導くことができないです」

「導くことができないって、ダメじゃないの!」
 一宮が大声を出して叱責する。越野さんは悔しそうに唇を噛みしめて俯いた。
「すみません……」
「謝って済むことじゃないでしょ? どうしてくれるのよ!」
 お前は何もやってないのに、どうしてそこまで偉そうになれるんだ? ひょっとして、異常人格か?

 一宮はため息をついた。
「でも、計算が行き詰まってしまったのなら、どうしようもないわね。なんかテキストの著者に負けたみたいで腹立たしいけど」
「仕方ありません。とりあえず、先へ進みましょう。機会があれば、いずれこの問題が解ける日も来ると思います」
 石原がにこやかに微笑みながら、現実的な提案をした。
「そうするか。所詮、高校生が場の量子論のテキストを読み進めること自体、無理があったんだ」
 俺は一宮への皮肉をたっぷり込めて同意した。

「行き詰ったときは、もう一度、原点に戻って考えてみるといい」
 どこからともなく澄んだ声が響いて、俺たちはあたりを見回した。
「誰だ?」
 ディラックの量子力學を小脇に抱えた小柄な少女がそこにいた。

 武者さんだった。