スーパーサイエンスガール

日々科学と格闘する理系高校生達の超絶難解な日常。

演算子とは

「次に、下の式の意味について説明します」
 石原は説明を続けた。

始状態: \mid i\,\rangle=a_{\bf p}^{\dagger}a_{-\bf p}^{\dagger}\mid 0\,\rangle
終状態: \mid f\,\rangle=b_{\bf k}^{\dagger}b_{-\bf k}^{\dagger}\mid 0\,\rangle

 \mid 0\,\rangleは、粒子が全く存在しない(粒子数が0の)状態、すなわち真空状態を表します」

 \mid 0\,\rangle:粒子数が0の状態(真空状態)

「また、 a_{\bf p}^{\dagger}, a_{-\bf p}^{\dagger}はそれぞれ、運動量p, -pの粒子を生成する演算子(えんざんし)です」
演算子?」
 一宮が間髪入れずに突っこむ。石原は少し考え込んだ。

演算子の厳密な定義を長々と説明すると、退屈のあまり一宮さんが眠ってしまわれるので、ここではごくごく大ざっぱに直観的なイメージを述べさせていただきます。演算子の厳密な定義については、あとでしかるべき教科書を参照してください」
 一宮の性格を知り尽くしているじゃないか、石原よ。

「ざっくりしたイメージをいえば、ここでの演算子は、空間の状態に作用して新たな(または同一の)空間の状態を生み出すものと考えるといいです。空間の状態に作用するので、演算子作用素(さようそ)とも呼ばれます」

演算子作用素):空間の状態に作用して新たな(または同一の)空間の状態を生み出すもの

「例えば、真空状態 \mid 0\,\rangle演算子 a_{\bf p}^{\dagger}が作用すると、運動量pの粒子が1つだけ生成され、粒子が1つだけ存在する新たな状態(1粒子状態)が生まれます。つまり、 a_{\bf p}^{\dagger}は、粒子を生成させる演算子なので、生成演算子と呼ばれます」

 a_{\bf p}^{\dagger}:粒子を生成させる演算子(生成演算子
 ↓
 a_{\bf p}^{\dagger}\mid 0\,\rangle:真空状態 \mid 0\,\rangleから運動量pの粒子が1つだけ生成された状態(1粒子状態)

「同様に、真空状態 \mid 0\,\rangle演算子 a_{\bf -p}^{\dagger}が作用すると、運動量-pの粒子が1つだけ生成されます」

 a_{\bf -p}^{\dagger}\mid 0\,\rangle:真空状態 \mid 0\,\rangleから運動量-pの粒子が1つだけ生成された状態(1粒子状態)

「ここまでは、よろしいでしょうか?」
 石原は、一宮の顔色を伺うように言葉を切った。

「ということは、 a_{\bf p}^{\dagger}a_{-\bf p}^{\dagger}\mid 0\,\rangleは、真空状態 \mid 0\,\rangleに2つの生成演算子を作用させて、運動量pと運動量-pの2つの粒子が存在する新たな状態(2粒子状態)が生まれたことを意味するのね?」

 a_{\bf p}^{\dagger}a_{-\bf p}^{\dagger}\mid 0\,\rangle:真空状態 \mid 0\,\rangleから運動量p, -pの2つの粒子が生成した状態(2粒子状態)

 一宮の指摘に石原が頷いた。
「ざっくりいってそういうことです。これは下の図の、運動量 \bf pの電子 e^-と運動量 \bf p^\prime(=-p)陽電子 e^+の2つの粒子が存在する状態に相当します」
図1.1
f:id:Dreistein:20140920202753p:plain

「この運動量 \bf pの電子 e^-と運動量 \bf -p陽電子 e^+の2粒子が存在する状態を始状態、すなわち初期状態であるとして、これを \mid i\,\rangleとおくわけです。ここで、iは、初期状態(initial state)のinitialの頭文字をとったものです」

始状態: \mid i\,\rangle=a_{\bf p}^{\dagger}a_{-\bf p}^{\dagger}\mid 0\,\rangle