演算子とは
「次に、下の式の意味について説明します」
石原は説明を続けた。
始状態:
終状態:
「は、粒子が全く存在しない(粒子数が0の)状態、すなわち真空状態を表します」
:粒子数が0の状態(真空状態)
「また、はそれぞれ、運動量p, -pの粒子を生成する演算子(えんざんし)です」
「演算子?」
一宮が間髪入れずに突っこむ。石原は少し考え込んだ。
「演算子の厳密な定義を長々と説明すると、退屈のあまり一宮さんが眠ってしまわれるので、ここではごくごく大ざっぱに直観的なイメージを述べさせていただきます。演算子の厳密な定義については、あとでしかるべき教科書を参照してください」
一宮の性格を知り尽くしているじゃないか、石原よ。
「ざっくりしたイメージをいえば、ここでの演算子は、空間の状態に作用して新たな(または同一の)空間の状態を生み出すものと考えるといいです。空間の状態に作用するので、演算子は作用素(さようそ)とも呼ばれます」
「例えば、真空状態に演算子
が作用すると、運動量pの粒子が1つだけ生成され、粒子が1つだけ存在する新たな状態(1粒子状態)が生まれます。つまり、
は、粒子を生成させる演算子なので、生成演算子と呼ばれます」
「同様に、真空状態に演算子
が作用すると、運動量-pの粒子が1つだけ生成されます」
:真空状態
から運動量-pの粒子が1つだけ生成された状態(1粒子状態)
「ここまでは、よろしいでしょうか?」
石原は、一宮の顔色を伺うように言葉を切った。
「ということは、は、真空状態
に2つの生成演算子を作用させて、運動量pと運動量-pの2つの粒子が存在する新たな状態(2粒子状態)が生まれたことを意味するのね?」
:真空状態
から運動量p, -pの2つの粒子が生成した状態(2粒子状態)
一宮の指摘に石原が頷いた。
「ざっくりいってそういうことです。これは下の図の、運動量の電子
と運動量
の陽電子
の2つの粒子が存在する状態に相当します」
図1.1
「この運動量の電子
と運動量
の陽電子
の2粒子が存在する状態を始状態、すなわち初期状態であるとして、これを
とおくわけです。ここで、iは、初期状態(initial state)のinitialの頭文字をとったものです」
始状態: