S-演算子とS-行列
「始状態と終状態を定めたところで、次は散乱について考えましょう。散乱前の状態に作用して散乱後の状態に変化させる演算子をS-演算子と呼びます。ここで、は、ちょうど『S』が帽子(ハット)をかぶっているようにも見えるので『エスハット』と呼びます。また、S-演算子のSは、『散乱』をあらわす英語『Scattering』の頭文字をとったものであり、S-演算子は『散乱演算子』という意味があります」
「例えば、散乱前の始状態にS-演算子を作用させたとき、散乱後の状態は、と書くことができます」
散乱前の始状態:
↓ S-演算子を作用させる
散乱後の状態:
「このように、量子力学では、S-演算子を用いて散乱を表現します。また、S-演算子を終状態のブラと始状態のケットではさんだものを、S-行列と呼びます」
S-行列:
「ここで、記号は、ギリシャ語で『ファイ』と呼び、アルファベットのFに相当します。Fは関数(function)の頭文字であることから、量子力学では、記号は波動関数をあらわす記号としてよく用いられます」
記号:ギリシャ語で『ファイ』と呼び、ローマ字のFに相当する
↓
Fは関数(function)の頭文字であり、量子力学ではは波動関数を意味する記号としてよく用いられる
「なんで行列っていうのよ?」
「行列というのは、ひと言で言えば、複数の状態間の関係をあらわすものです」
行列:複数の状態間の関係をあらわすもの
「例えば、()という2つの始状態が、()という2つの終状態に変換された場合を想定すると、このような変換は、2行2列のS行列を用いて次のように書くことができます」
「量子力学においては、粒子の本質は波であるため、1個の粒子であったとしても、その状態は1つではなく、通常、異なる複数の波の状態の重ね合わせとして表されます。散乱によって複数の状態が別の複数の状態に変換されるために、行列を用いるんです」
粒子の本質は波
↓
通常、異なる複数の波の重ね合わせとして表される
↓
散乱によって複数の波の状態が別の複数の波の状態に変換される
↓
行列を用いる
「散乱によって複数の波の状態間の関係をあらわすものだから、S(散乱)-行列っていうのね」