ハミルトニアンとは
Fig.1.2
「ファインマンルールによると、外線(external lines)、内線(internal lines)および頂点(vertices)といったダイアグラムの各要素は、散乱振幅 への寄与に直接対応させることができる」
散乱の微分断面積:
「ここで、電子・陽電子
の2粒子状態からミュー粒子
・反ミュー粒子
の2粒子状態への遷移の大きさ(遷移振幅)は、次の(1.2)式のようにあらわせる」
終状態
始状態
(1.2)
「始状態は、電子および陽電子
の2粒子が生成された状態
であり、終状態は、ミュー粒子
および反ミュー粒子
の2粒子が生成された状態
。そして、
は、ハミルトニアンの相互作用部分をあらわす」
「大和、ハミルトニアンって何よ?」
一宮が訊ねる。大和(やまと)というのは、武者さんのファーストネームだ。
「話すと長い」
「長くてもいいから」
武者さんは黙って一宮の顔を見つめていたが、やがて話し始めた。
「ニュートンの運動方程式などの方程式は、X軸、Y軸、Z軸の互いに直交する直交(デカルト)座標に基づいて立てられている。だから、極座標系などの他の座標系に変換すると方程式の形が変わってしまう」
ニュートンの運動方程式(直交座標系に基づいて立てられている)
↓
極座標系などの他の座標系に変換すると方程式の形が変わってしまう
「運動の法則自体は、どのような座標系をとったとしても変わることはないから、座標系によって運動方程式の形が変わるということは、その方程式は、運動の法則の本質をあらわしていないことになる」
運動の法則自体は、どのような座標系をとったとしても変わることはない
↓
座標系によって運動方程式の形が変わるなら、その方程式は運動の法則の本質をあらわしていない
「そういえばそうね。直交座標系から極座標に変えたとしても、運動の法則そのものが変わるわけがないわね」
「そこで、運動の法則を座標系によらない形に表現するために、ラグランジュやハミルトンのような18〜19世紀の数学者達が、直交座標系や極座標系を一般化した『一般化座標』というものを考え、そのような一般化座標系に基づいた力学をつくった。これが、『解析力学』と呼ばれる学問の始まり」
ラグランジュやハミルトニアンなどの18〜19世紀の数学者達
運動の法則を座標系によらない形に表現するために、直交座標系や極座標系を一般化した『一般化座標』というものを考えた
↓
一般化座標系に基づいた力学(解析力学)が誕生した
「一般化座標に基づいて立てられた運動方程式は、解析力学の創始者である数学者ラグランジュの名前にちなんで『ラグランジュの運動方程式』と呼ばれ、これが直交座標系に基づいて立てられたニュートンの運動方程式に対応する。また、運動方程式と同様に、エネルギーの式も特定の座標系によらない形に表現することができ、これを数学者ハミルトンの名前にちなんで『ハミルトニアン』と呼ぶ」
直交座標系 一般化座標系(特定の座標系によらない一般的な座標系)
ニュートンの運動方程式 → ラグランジュの運動方程式
エネルギー → ハミルトニアン
「ラグランジュの運動方程式やハミルトニアンは特定の座標系によらないため、直交座標系に基づいて立てられたニュートンの運動方程式やエネルギーの式よりも、運動の法則やエネルギーの本質をあらわしているものと考えられる」
「要するに、直交座標系であらわされたエネルギーの式を、特定の座標系によらない、より本質的な形に書き換えたものがハミルトニアンというわけね」