縦偏極光子とは
「次に、電子と陽電子
がいずれも進行方向に対して右回りのスピンを有する場合を考える」
「このとき、電子と陽電子
がいずれも進行方向に対して右回りのスピンを有することから、それぞれのz軸方向のスピン角運動量が互いに打ち消し合ってゼロになる。また、光子との相互作用において角運動量が保存されるため、もしこのような寄与があるなら、z方向の角運動量がゼロの縦偏極光子(longitudinally polarized photon)と相互作用するものと考えられる」
「縦偏極光子ってなによ?」
「光子はスピン1をもつため、z軸方向のスピン角運動量は、
の3通りがある。古典的には、
は光の進行方向に対し電場ベクトルが時計方向に回転する右円偏光に対応し、
は光の進行方向に対し電場ベクトルが時計方向に回転する左円偏光に対応する。また、
は縦偏極光に対応する。これを固有ベクトルであらわすと次のようになる」
「縦偏極光っていうが、光は横波だけで縦波なんてないんじゃないのか?」
俺が疑問を口にすると、武者さんは頷いた。
「光の質量はゼロで常に光速度Cで運動するから、縦偏極光は実際には観測されない」
「なるほど、そういうことか」
俺が頷くと、一宮が声を荒げて俺と武者さんの間に割り込んできた。
「ちょっと、あんたたち何いってんのよ? ちゃんとわかるように説明してよ」
怒れる一宮に対し、癇癪を起こした小さな子供をなだめるような口調で石原が説明した。
「光速度Cで運動している光が、縦方向に偏極したら光速度Cより速く運動してしまうことになるでしょう? しかし、これは明らかに光速度不変の原理に反するので、光には縦波成分が現れないんです」
越野さんの表情が曇る。
「でも、固有ベクトルには、光の進行方向の成分もあるから、縦波成分が存在しないってわけじゃないですよね。存在しているのに表に現れないって、なんだか気持ち悪くありませんか?」
武者さんが答えた。
「縦偏極光子は観測されないが、仮想光子としてクーロン場に寄与するものと考えられている」
縦偏極光子は観測されないが、仮想光子としてクーロン場に寄与する
「存在しているのに決して観測されないなんて、まるで幽霊みたいな光子ね」
一宮の瞳が輝いた。