スーパーサイエンスガール

日々科学と格闘する理系高校生達の超絶難解な日常。

計量テンソルとは

「また、ファインマン図において、光子をあらわす内線に -ig_{\bf{\mu \nu}}/q^2が対応する。ここで、 g_{\bf{\mu \nu}}は、ミンコフスキー計量テンソルをあらわし、 qは、仮想光子の4元運動量をあらわす」
「ミンコフスキー計量テンソルって何よ?」
「おまえ、さっきから質問ばかりしているな」
 俺があきれていうと、一宮が逆上した。
「仕方ないでしょ? さっきから意味不明の言葉ばかり出て来るんだもの」
「少しは自分で考えたらどうなんだ」
「自分で考えて分かったら苦労しないわ! 分からないから訊いているのよ!」
「なんというか、おまえ、すがすがしいくらいに完全に開き直っているな。見ているこっちまで恥ずかしくなるくらいだ」
「なんとでもいいなさい! 何度質問しようが、分かれば正義、官軍よ!」
 一宮は勝ち誇ったように笑った。
「わけがわからん……」
 一宮のめちゃくちゃな理屈に、俺は肩をすくめた。

 そんな俺たちの不毛なやりとりが終了するタイミングを見計らっていたかのように、武者さんが解説を続けた。
「計量(metric)とは、『測定基準』という意味で、空間の距離や角度の測定の基準となるもの」

計量(metric):測定基準。空間の距離や角度の測定の基準となるもの

「そして、計量テンソルとは、一言でいえば、空間の種類(座標系の違い)によらずに空間の距離や角度を決定できる基準を与えるもの」

計量テンソル(metric tensor):
空間の種類(座標系の違い)によらずに空間の距離や角度を決定できる基準を与えるもの

「例えば、2つの座標  x^\mu x^\mu+dx^\muとの間の距離 dsは、計量テンソル g_{\mu\nu}を用いて、次のようにあらわされる」

2点の座標  x^\mu x^\mu+dx^\muとの間の距離 ds ds^2=g_{\mu\nu}dx^{\mu}dx^{\nu}

「上式では、アインシュタインの縮約記法を用いており、 \mu, \nuについて、それぞれ和 \Sigma_{\mu, \nu}をとることを意味する。例えば、2次元のユークリッド(平らな)空間では、 \mu, \nu=1,2となり、計量テンソル g_{\mu\nu} g_{11}=g_{22}=1, g_{12}=g_{21}=0となるため、上式は次のようにかける」

 
{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
ds^2&=&\Sigma_{\mu, \nu=1}^2 g_{\mu\nu} dx^{\mu}dx^{\nu}\\
&=&g_{11} dx^{1}dx^{1}+ g_{12} dx^{1}dx^{2}+ g_{21} dx^{2}dx^{1}+ g_{22} dx^{2}dx^{2}\\
&=&(dx^1)^2+(dx^2)^2
\end{eqnarray}
}

「ここで、 dx^1=dx、dx^2=dyとおけば、X座標が dx、Y座標が dyだけ変化したときの微小な曲線の長さdsが求められる」

 
{ \displaystyle
ds=\sqrt{(dx)^2+(dy)^2}
}

「同様に、3次元のユークリッド(平らな)空間では、 \mu, \nu=1,2,3となり、計量テンソル g_{\mu\nu} g_{11}=g_{22}=g_{33}=1, g_{12}=g_{13}=g_{21}= g_{23}=g_{31}=g_{32}=0となるため、上式は次のようにかける」

 
{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
ds^2&=&\Sigma_{\mu, \nu=1}^3 g_{\mu\nu} dx^{\mu}dx^{\nu}\\
&=&g_{11} dx^{1}dx^{1}+ g_{12} dx^{1}dx^{2}+ g_{13} dx^{1}dx^{3}+ g_{21} dx^{2}dx^{1}+ g_{22} dx^{2}dx^{2}\\
&+& g_{23} dx^{2}dx^{3}+ g_{31} dx^{3}dx^{1}+ g_{32} dx^{3}dx^{2}+ g_{33} dx^{3}dx^{3}\\
&=&(dx^1)^2+(dx^2)^2+(dx^3)^2
\end{eqnarray}
}

「ここで、 dx^1=dx、dx^2=dy, dx^3=dzとおけば、X座標が dx、Y座標が dy、Z座標が dzだけ変化したときの微小な曲線の長さdsが求められる」

 
{ \displaystyle
ds=\sqrt{(dx)^2+(dy)^2+(dz)^2}
}

「また、4次元の時空間の場合、 \mu, \nu=0,1,2,3となり、ミンコフスキーの計量テンソル \eta_{\mu, \nu}は、 \eta_{00}=1, \eta_{11}=\eta_{22}=\eta_{33}=-1、その他の成分は、 \eta_{\mu\nu}=0 \,(\mu\neq\nu)となるため、2次元および3次元のユークリッド空間の場合と同様の計算をすれば、その距離 dsは、次のようにかける」

 
{ \displaystyle
ds=\sqrt{(dt)^2-(dx)^2-(dy)^2-(dz)^2}
}

「このように、計量テンソルは、2、3次元のユークリッド空間や4次元のミンコフスキー空間など、どのような空間を選んだとしても、空間の長さや角度を決定できる基準を与える」
 一宮がようやく得心したように晴れ晴れとした顔つきになった。
「要するに、計量テンソルっていうのは、どんな空間を選んでも、その空間の距離や角度を測ることのできる『万能ものさし』のようなものね。そして、ミンコフスキー計量テンソルというのは、4次元の時空間の距離や角度を測ることのできる『4次元ものさし』といったところね」