完備関係式とは
「ここで、非相対論的な自由粒子を例に、この振幅の具体的な値を実際に計算してみましょう。非相対論において、質量、運動量の自由粒子の運動エネルギーは、とかけるため、この式をハミルトニアン(ハミルトニアンは、一般化座標であらわしたエネルギー)に代入すると、次のようになります」
「ここで、指数関数とケットベクトルとの間に、積分による完備関係式、を代入しました」
「完備関係式って何よ?」
一宮が気だるそうに顔をしながら質問した。いまだに片手でシャープペンをいじり回している。
「完備関係式は、ケットベクトルの展開に関係する式です。例えば、任意のケットベクトルは、完全正規直交系を用いて、次のように展開することができます」
「ここで、は展開係数です」
「展開?」
一宮が首を傾げた。いまいちピンと来ないらしい。そこで、越野さんはホワイトボードに図を描き始めた。
「任意のベクトルは、下図のように、直交座標の各座標軸の方向に伸びる単位ベクトルと係数の積の和の形に書きあらわすことができます」
「このように、任意のベクトルを完全正規直交系(ここでは、直交する単位ベクトル)の和の形に書き表すことを『展開』と呼びます」
展開:任意のベクトルを完全正規直交系(ここでは、直交する単位ベクトル)の和の形に書き表すこと
「上の図において、展開係数は、任意のベクトルの各成分に等しく、これらはベクトルの内積を用いてのようにあらわすことができます」
「どうして展開係数の成分がベクトルの内積になるのよ?」
「なぜなら、ベクトルとベクトルの内積は、単位ベクトルに向かって光を当てたときに射影したベクトルの成分の大きさに相当するからです」
「また、上の関係は、任意のケットベクトルの展開についても、同様に成り立ちます。つまり、任意のベクトルを任意のケットベクトルに置き換え、各座標軸の方向に伸びる単位ベクトルを正規直交系に置き換え、任意のベクトルの各座標軸の成分をケットベクトルの展開係数に置き換えると、任意のケットベクトルの展開式を得ることができます」
↓
任意のベクトル→任意のケットベクトル
各座標軸の方向に伸びる単位ベクトル→完全正規直交系
任意のベクトルの各座標軸の成分→展開係数
↓
「ここで、上の展開式が任意のケットベクトルで成り立つとき、上式の両辺からケットベクトルを除いた次の式も成り立つものと考えることができます」
「この関係式を『完備関係式』と呼びます。ここでは、Σの和の形で完備関係式を表しましたが、位置空間や運動量空間などの連続的な空間を考える場合は、完備関係式は、テキストのように積分形であらわされます」
積分による完備関係式