スーパーサイエンスガール

日々科学と格闘する理系高校生達の超絶難解な日常。

運動項のみのラグランジアンから生じる保存則

ネーターの定理(Noether's theorem)
系に連続的な対称性が存在するとき、それに対応する保存則が存在する

「ネーターの定理によって生じる保存則の一番簡単な例は、ラグランジアン\mathcal{L}が運動項 \frac{1}{2}(\partial_\mu\phi)^2のみを有する場合です」
「運動項って……なんだったかしら?」
 一宮が首を傾げた。

ラグランジアン \mathcal{L}は(運動エネルギー)−(位置エネルギー)の形で表しますが、これは形式的に考えると、(微分の2次を含む項)−(微分を含まない逆符号の項)と考えることもできます。前者を『運動項』、後者を『ポテンシャル項』と呼びます」

ラグランジアン \mathcal{L}の構造
運動項(微分の2次を含む項)−ポテンシャル項(微分を含まない逆符号の項)
{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\mathcal{L}&=&\frac{1}{2}(\partial_\mu\phi)^2-\frac{1}{2}m^2\phi^2.
\end{eqnarray}
}

「そうそう! 思い出したわ!」
 一宮が手を打った。
「それゆえ、ラグランジアンが運動項のみの場合は、ポテンシャルがない空間中を粒子等が運動する場合に相当します」

ラグランジアンが運動項のみの場合:
ポテンシャルがない空間中を粒子等が運動する場合に相当

「ここで、 \alphaを任意の定数として、変換 \varphi\rightarrow\varphi+\alphaによって \mathcal{L}が不変となる条件を考えてみます。この条件は、前回お話した(2.9)式および(2.10)式において、 \delta\phi(x)=1, \partial_\mu\mathcal{J}^\mu(x)=0とした場合に相当します」

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\phi(x)\rightarrow\phi^\prime(x)=\phi(x)+\alpha\delta\phi(x)
\end{eqnarray}
}
(2.9)

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\mathcal{L}(x)\rightarrow\mathcal{L}(x)+\alpha\partial_\mu\mathcal{J}^\mu(x)
\end{eqnarray}
}
(2.10)

「そこで、前回求めた(2.12)式において、 \delta\phi(x)=1, \partial_\mu\mathcal{J}^\mu(x)=0, \mathcal{L}=\frac{1}{2}(\partial_\mu\phi)^2を代入します」

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\partial_\mu j^\mu(x)=0, \,\,\,\,\,\,\,\,\,\, \mathrm{for}\,\,\,\,\,\, j^\mu(x)=\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\phi)}\Delta\phi-\mathcal{J}^\mu
\end{eqnarray}
}
(2.12)

「すると、(2.12)式は、次のようになります」

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
j^\mu(x)=\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\phi)}\Delta\phi-\mathcal{J}^\mu=\partial^\mu\phi
\end{eqnarray}
}

「結局、カレント j^\mu=\partial^\mu\varphiが保存されるという結論が得られます。これは、場 \varphiの時空間の変動が保存されることを意味します」

運動項 \mathcal{L}=\frac{1}{2}(\partial_\mu\phi)^2のみを有するラグランジアン \mathcal{L}が、変換 \varphi\rightarrow\varphi+\alphaによって不変となる場合
 ↓
 \varphiの時空間の変動が保存される

「ちょっと待ってよ! どうして、 \muが下付きの  \mathcal{L}=\frac{1}{2}(\partial_\mu\phi)^2 \partial_\mu\phi微分したら、 \muが上付きの \partial^\muが出てくるのよ?」
「テキストでは、  \mathcal{L}=\frac{1}{2}(\partial_\mu\phi)^2のように、2乗の項がいずれも下付きの \muで書かれていますが、実際には、ラグランジアン \mathcal{L}は、ローレンツ不変な実スカラー場であるため、次のように上付きと下付きの \muの積の形で表されます」

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\mathcal{L}=\frac{1}{2}(\partial_\mu\phi)^2\rightarrow\mathcal{L}=\frac{1}{2}(\partial_\mu\phi)(\partial^\mu\phi)
\end{eqnarray}
}

「そのため、下付きの \partial_\mu\phi微分すると、上付きの \partial^\mu\phiが残るのではないかと思います」
「だったら、上付きと下付きの添字 \muの積の形で書いたらいいでしょ! 初学者が混乱するじゃない!」
 一宮が憤慨したようにいった。
 いちいち注文がうるさいな、おまえは……。

「ちなみに、上付きの添字 \muを有するベクトルを『反変ベクトル(contravariant vector)、下付きの添字 \muを有するベクトルを『共変ベクトル(covariant vector)と呼んで区別します』

反変ベクトル(contravariant vector):上付きの添字 \muを有するベクトル
共変ベクトル(covariant vector):下付きの添字 \muを有するベクトル

「反変ベクトルと共変ベクトルの違いについては、いずれまた詳しくとりあげるつもりです。ここではとりあえず、上付きの添字 \muをもったベクトルと、下付きの添字 \muをもったベクトルの区別があることを覚えておいてください」