運動項のみのラグランジアンから生じる保存則
ネーターの定理(Noether's theorem)
系に連続的な対称性が存在するとき、それに対応する保存則が存在する
「ネーターの定理によって生じる保存則の一番簡単な例は、ラグランジアンが運動項のみを有する場合です」
「運動項って……なんだったかしら?」
一宮が首を傾げた。
「ラグランジアンは(運動エネルギー)−(位置エネルギー)の形で表しますが、これは形式的に考えると、(微分の2次を含む項)−(微分を含まない逆符号の項)と考えることもできます。前者を『運動項』、後者を『ポテンシャル項』と呼びます」
「そうそう! 思い出したわ!」
一宮が手を打った。
「それゆえ、ラグランジアンが運動項のみの場合は、ポテンシャルがない空間中を粒子等が運動する場合に相当します」
ラグランジアンが運動項のみの場合:
ポテンシャルがない空間中を粒子等が運動する場合に相当
「ここで、を任意の定数として、変換によってが不変となる条件を考えてみます。この条件は、前回お話した(2.9)式および(2.10)式において、とした場合に相当します」
(2.9)
(2.10)
「そこで、前回求めた(2.12)式において、を代入します」
(2.12)
「すると、(2.12)式は、次のようになります」
「結局、カレントが保存されるという結論が得られます。これは、場の時空間の変動が保存されることを意味します」
運動項のみを有するラグランジアンが、変換によって不変となる場合
↓
場の時空間の変動が保存される
「ちょっと待ってよ! どうして、が下付きのをで微分したら、が上付きのが出てくるのよ?」
「テキストでは、のように、2乗の項がいずれも下付きので書かれていますが、実際には、ラグランジアンは、ローレンツ不変な実スカラー場であるため、次のように上付きと下付きのの積の形で表されます」
「そのため、下付きので微分すると、上付きのが残るのではないかと思います」
「だったら、上付きと下付きの添字の積の形で書いたらいいでしょ! 初学者が混乱するじゃない!」
一宮が憤慨したようにいった。
いちいち注文がうるさいな、おまえは……。
「ちなみに、上付きの添字を有するベクトルを『反変ベクトル(contravariant vector)、下付きの添字を有するベクトルを『共変ベクトル(covariant vector)と呼んで区別します』
反変ベクトル(contravariant vector):上付きの添字を有するベクトル
共変ベクトル(covariant vector):下付きの添字を有するベクトル
「反変ベクトルと共変ベクトルの違いについては、いずれまた詳しくとりあげるつもりです。ここではとりあえず、上付きの添字をもったベクトルと、下付きの添字をもったベクトルの区別があることを覚えておいてください」