テイラー展開とは
「次に、変換のもとで複素スカラー場のラグランジアン
が不変の場合を考えてみます」
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(2.14)
「以前、場の無限小の変換は次のような形に書けることをお話しました」
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(2.9)
「ここで、この(2.9)式と変換を比較すると、(2.9)式の右辺の第2項は次のようになります」
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(2.15)
「ちょっと待って! なんでそうなるのよ?」
一宮が、訳が分からないといったように頭を振った。
「(2.9)式と変換って、全然形が違うじゃない! それなのに、なんで比較ができるのよ!」
「これはテイラー展開(Taylor expansion)を用いているためです」
「テイラー展開?」
「ある区間で無限回微分可能な関数f(x)は、その区間内の定点aの近傍のxにおいて、次のように展開でき、このような展開をテイラー展開(Taylor expansion)と呼びます」
テイラー展開(Taylor expansion)
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「ここで、は、『nの階乗(factorial)』と呼ばれる記号であり、
のように、nから1までの積を表します。また、
は、
における関数
の『n次導関数』と呼ばれる記号であり、関数
をn回微分して
を代入した値です」
(nの階乗(factorial)):
(ただし、と定める)
「特に、のとき、テイラー展開は、マクローリン(Maclaurin expansion)展開と呼ばれ、次のように書くことができます」
マクローリン展開(Maclaurin expansion)
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「でも、どうしてテイラー展開やマクローリン展開なんてものを使うのよ?」
一宮が首を傾げた。
「その理由を知るには、具体例を挙げるとわかりやすいです。ここで、という指数関数を実際にマクローリン展開してみます。
から、
のマクローリン展開の第1項(
)は1となります。また、第2項(
)は
となり、第3項(
は
となります」
「このように、マクローリン展開を行うことにより、指数関数を
の関数の和で表すことができます。ここで、上の式に
を代入すると、
は無限小なので、2次以上の項の寄与はとても小さくなります。これは例えば、0.01を2乗すると0.0001となり、3乗すると0.000001となって、小さな数同士をかけ算すればするほど、どんどん小さくなることからも理解できると思います」
小さな数同士をかけ算すればするほど、どんどん小さくなっていく
0.01の2乗→0.0001
0.01の3乗→0.000001
0.01の4乗→0.00000001
「それゆえ、2次以上の項の寄与を無視すると、結局、と近似することができます。このように、テイラー展開やマクローリン展開は、近似計算に役立つのです」
「実際、上で求めた近似式を用いると、となるため、この式と(2.9)式と比較することによって、(2.15)式の関係を得ることができます。このように、数学や物理の世界では、テイラー展開やマクローリン展開を用いた近似がよく行われるので覚えておいてください」