スーパーサイエンスガール

日々科学と格闘する理系高校生達の超絶難解な日常。

クロネッカーのデルタを用いた添字の変換

「無限小の平行移動によるラグランジアン \mathcal{L}の変換も、場 \varphiと同じように書くことができます」


{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\mathcal{L}&\rightarrow&\mathcal{L}+\alpha^\mu\partial_\mu\mathcal{L}=\mathcal{L}+a^\nu\partial_\mu(\delta^\mu_\nu\mathcal{L}).
\end{eqnarray}
}

「ちょっと待ってよ! なんでいきなり \deltaが湧いてくるのよ!」
 一宮が怒り心頭といった感じで叫び声をあげた。

 お前な、ちょっとした式変形につまづくたびに、いちいちそんな叫び声をあげていたら、このテキストを読み終えるまでに、少なくともあと数万回は叫び声をあげることになるぞ……。

「理系なら、記号を見ただけで直観的に分かると思うのですが……」
 越野さんは半ば戸惑った顔でいった。
「こんな唐突な式変形が分かるわけないでしょ? あんたたち理系と一緒にしないでよ!」

 そうそう。言い忘れていたが、理系ばかりのSS(スーパー・サイエンス)団の中では唯一、団長の一宮だけが文系だ。
 どうして、科学的な真理を追究することを目的とする、崇高なる我が科学サークル、SS団の団長たるものが理系ではなく、文系なのかって? 一宮によれば、代々、日本を支配してきたトップクラスの人間はいずれも文系出身であり、それゆえSS団のトップも当然文系であるべきだという、理屈だからだ。こういう偏狭的な考え方の持ち主が、今の日本をダメにしているんだろうな……。

 一宮の剣幕に押されて、越野さんは半ばビクつきながら説明を始めた。
「物理で \deltaが出てくるときは大抵、デルタ関数クロネッカーのデルタのどちらかだと考えるといいです」

物理で \deltaが出てくるときは大抵、デルタ関数クロネッカーのデルタのどちらかである

「この場合は、クロネッカーのデルタで、次のように定義されます」

{ \displaystyle
\delta^\mu_\nu=\bigg\{
\begin{eqnarray}
1\,\,\,\,\,\,\,\,  (\mu=\nu)\\
0\,\,\,\,\,\,\,\,  (\mu\neq\nu)
\end{eqnarray}
}

「だから、どうしてクロネッカーのデルタがいきなり出てくるのよ?」
 一宮が間近まで詰め寄り、越野さんは息をのんだ。
「以前、完備関係式についてお話したと思います」

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
完備関係式:1=\Sigma_{a'}\mid a'\rangle \langle a'\mid
\end{eqnarray}
}

「それとこれと何の関係があるの?」
「この式の両辺に、右側からケットベクトル \mid a\rangleをかけると、次のようになります」

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\mid a\rangle=\Sigma_{a'}\mid a'\rangle \langle a'\mid a\rangle=\Sigma_{a'}\langle a'\mid a\rangle\mid a'\rangle 
\end{eqnarray}
}

「この式は、任意のケットベクトル \mid a\rangleが、完全正規直交系 \mid a'\rangleを用いて展開できることを示しています。ここで、クロネッカーのデルタは、次のようにブラケットで表すこともできます」

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\delta_{a' a}=\langle a'\mid a\rangle
\end{eqnarray}
}

「すると、上のケットベクトル \mid a\rangleの展開式は、クロネッカーのデルタ\delta_{a' a}を用いて、次のように書くこともできます」

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\mid a\rangle=\Sigma_{a'}\delta_{a' a}\mid a'\rangle 
\end{eqnarray}
}

「ここで、 \mid a\rangle\rightarrow a^\mu, \mid a'\rangle\rightarrow a^\nu, \delta_{a' a}\rightarrow \delta^\mu_\nuとおいて、ケットベクトルを4元ベクトルに置き換えると、次のような式を導くことができます」

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
a^\mu=\delta^\mu_\nu a^\nu
\end{eqnarray}
}

「なお、この式において、和 \Sigmaの記号は、アインシュタインの縮約記法に従って省略しました。この式は、 aの上付きの添字を \muから \nuに変換する関係式と考えることができます。この関係式を用いると、無限小の平行移動によるラグランジアン \mathcal{L}の変換は、次のように変形することができるのです」


{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\mathcal{L}&\rightarrow&\mathcal{L}+\alpha^\mu\partial_\mu\mathcal{L}\\
&=&\mathcal{L}+(\delta^\mu_\nu a^\nu)\partial_\mu\mathcal{L}\\
&=&\mathcal{L}+(a^\nu\delta^\mu_\nu)\partial_\mu\mathcal{L}\\
&=&\mathcal{L}+a^\nu\partial_\mu(\delta^\mu_\nu\mathcal{L}).
\end{eqnarray}
}

「以上が、ラグランジアン \mathcal{L}クロネッカーのデルタ \delta^\mu_\nuが出てくる理由です」