第2量子化とは
「実クライン−ゴルドン場の古典論については、前節で簡単に(テキストによれば、あれで十分だそうですが)説明しました。関連する式は、(2.6), (2.7)および(2.8)です」
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(2.6)
クライン−ゴルドン方程式
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(2.7)
(2.8)
「ここで、古典的なクライン−ゴルドン方程式を量子化するため、場と運動量密度
を演算子として取り扱い、適切な交換関係を課します。1以上の粒子の離散的な系では、交換関係は次のようになることを思い出してください」
「このような手続きを『第2量子化』と呼び、(を演算子とする)クライン−ゴルドン方程式を(
を古典場とする)クライン−ゴルドン方程式と区別します」
「第2量子化? さっきの量子化とどう違うのよ?」
「1粒子系のSchrodinger方程式は、巨視的(マクロ)な物理量を演算子に置き換えることにより、すでに量子化を行った式であることは、前回お話しました」
1粒子系のSchrodinger方程式
「でも、Schrodinger方程式を導くに当たって、演算子に置き換えたのは、エネルギーや運動量のような物理量であって、波動関数そのものは、まだ演算子に置き換えていません。そこで、波動関数
も、演算子
に置き換えてみることを考えてみます。このように、波動関数
を演算子
に置き換えることを、『第2量子化(second quantization)』と呼び、その結果、Schrodinger方程式はHeisenbergの運動方程式になります」
1粒子系のHeisenbergの運動方程式
「ちょっと待って。上の2つの式って、どう違うのよ? に
(ハット。帽子のような記号なので『ハット』と呼ぶ)が付いているかどうかの違いだけじゃない?」
一宮が腑に落ちない様子で疑問を口にすると、越野さんは頭を大きく振った。
「一見、単なる記号の違いのように思えますが、物理的には大きな違いがあります。波動関数は、空間内を伝播する『波動』を表しますが、演算子
は、空間内に生成・消滅する『場の量子』を表しているのです」
「場の量子?」
「量子場の理論では、粒子や波動は、空間とは無関係に存在するのではなく、空間を一様に満たす場の一部が励起(振動)したものと考えます」
「上のゲームの例でいえば、機体やエネルギー弾が画面内を自由に飛んでいるように見えますが、実際には、画面を構成する1つ1つの画素に連続的に色情報が与えられることによって、機体やエネルギー弾が画面内を飛んでいるように見えるのです。古典的な場が従うSchrodingar方程式は、前者のイメージに対応し、古典的な場
が量子化したHeisenbergの運動方程式が、後者のイメージに対応するのです」
古典的な場
:空間とは独立に、空間内を粒子や波動が運動するイメージ
↓ 第2量子化
量子化された場:空間を一様に満たす場の一部が励起(振動)して粒子や波動として認識されるイメージ
「ただし、ここで気をつけなくてはいけないのは、第2量子化は、巨視的な物理量や式を微視的な物理量や式に置き換えるという『量子化(Quantization)』の定義には該当しません。なぜなら、古典的な場を扱うSchrodinger方程式は微視的な物理量を完全に記述可能な方程式であるため、巨視的な量から微視的な量に置き換える『量子化』そのものは、Shorodinger方程式を導いた時点ですでに行われているからです」
量子化と第2量子化の違い
(1) Newtonの運動方程式(巨視的な運動方程式)
↓ 量子化(巨視的→微視的に置き換える)
(2) Schrodingerの波動方程式(微視的な運動方程式。微視的な運動を完全に記述可能)
↓ 第2量子化(微視的→微視的で変わらない。ゆえに厳密には『量子化』ではない)
(3) Heisenbergの運動方程式(古典的な場を量子化された場に置き換えたもの)
「だから『第2量子化』という言葉は、誤解に基づく言葉であり、厳密には不適切な言葉といえます。決して巨視的な量を微視的な量に2回変換しているわけではないので、この点を十分に注意してください」