スーパーサイエンスガール

日々科学と格闘する理系高校生達の超絶難解な日常。

零点エネルギーとは

「正準交換関係 [\varphi, p]は、(2.20)の関係から iとなることがわかります」

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
[\phi({\bf{x}}), \pi({\bf{y}})]&=&i\delta^{(3)}({\bf{x}}-{\bf{y}});\\
[\phi({\bf{x}}), \phi({\bf{y}})]&=&[\pi({\bf{x}}), \pi({\bf{y}})]=0.
\end{eqnarray}
}
(2.20)

「一方、 [A, B]=AB-BAの関係を使って、正準交換関係 [\varphi, p]を計算してみます」


{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
[\phi, p]&=&\phi p-p\phi\\
&=&-\frac{i}{2}[(a+a^\dagger)(a-a^\dagger)-(a-a^\dagger)(a+a^\dagger)]\\
&=&-\frac{i}{2}[(aa-aa^\dagger+a^\dagger a- a^\dagger a^\dagger)-(aa+aa^\dagger-a^\dagger a-a^\dagger a^\dagger)]\\
&=&-\frac{i}{2}[2(a^\dagger a-aa^\dagger)]\\
&=&i[aa^\dagger-a^\dagger a]\\
&=&i
\end{eqnarray}
}

「これから、 aa^\dagger-a^\dagger a=1となって、次の(2.24)式の関係が得られます」


{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
[a, a^\dagger]=1.
\end{eqnarray}
}
(2.24)

「次に、式(2.23)を代入してハミルトニアン H_\textrm{SHO}を計算してみます」


{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\phi=\frac{1}{\sqrt{2\omega}}(a+a^\dagger)\textrm{;}\,\,\,\,\,\,\,\, p=-i\sqrt{\frac{\omega}{2}}(a-a^\dagger).
\end{eqnarray}
}
(2.23)

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
H_\textrm{SHO}&=&\frac{1}{2}p^2+\frac{1}{2}\omega^2\phi^2\\
&=&\frac{1}{2}(-i)^2\frac{\omega}{2}(a-a^\dagger)^2+\frac{1}{2}\omega^2\frac{1}{2\omega}(a+a^\dagger)^2\\
&=&-\frac{\omega}{4}(a-a^\dagger)^2+\frac{\omega}{4}(a+a^\dagger)^2\\
&=&\frac{\omega}{4}\{(a+a^\dagger)^2-(a-a^\dagger)^2\}\\
&=&\frac{\omega}{4}2(aa^\dagger+a^\dagger a)\\
&=&\frac{\omega}{2}(1+a^\dagger a+a^\dagger a)\\
&=&\frac{\omega}{2}(2a^\dagger a+1)\\
&=&\omega \bigg(a^\dagger a+\frac{1}{2}\bigg)
\end{eqnarray}
}

「ここで、真空状態 \mid 0\rangleハミルトニアン H_\mathrm{SHO}を左側から作用させると、次のようになります」


{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
H_\textrm{SHO}\mid 0\rangle
&=&\omega \bigg(a^\dagger a+\frac{1}{2}\bigg)\mid 0\rangle\\
&=&\omega a^\dagger a\mid 0\rangle+\frac{1}{2}\omega \mid 0\rangle
\end{eqnarray}
}

「ところで、真空状態 \mid 0\rangleは、消滅すべき粒子が存在しない状態であるため、真空状態に消滅演算子 aを作用させても、その確率振幅は0になります。それゆえ、 a\mid 0\rangle=0となるため、上の式は次のようになります」


{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
H_\textrm{SHO}\mid 0\rangle
&=&\omega a^\dagger a\mid 0\rangle+\frac{\omega}{2}\mid 0\rangle\\
&=&\frac{1 }{2}\omega \mid 0\rangle
\end{eqnarray}
}

「結局、真空状態 \mid 0\rangle固有値は、 \frac{1}{2}\omegaとなります。この真空状態のエネルギーは、『零点エネルギー(zero-point energy)』と呼ばれます」

零点エネルギー(zero-point energy):真空状態のエネルギー

「つまり、真空状態にも、エネルギーが存在するってわけ?」
 一宮が訊ねた。
「そうですね。どんなに空虚で空っぽの空間にも、エネルギーが存在することになります」
「空虚で空っぽの空間なのに、どうしてエネルギーが存在するのよ?」
 一宮は腑に落ちないような顔をした。

量子力学では、位置と運動量との間の不確定性原理によって、粒子を一点に静止した状態を実現することができません。それゆえ、粒子は常に振動した状態になります。このような不確定性原理に起因する振動を零点振動(zero-point oscillation)と呼びます」

零点振動(zero-point oscillation)
位置と運動量との間の不確定性原理
 ↓
粒子を一点に静止した状態を実現することができず、粒子は常に振動した状態となる

「また、粒子の本質が波動であることを考えれば、零点エネルギーは、波動そのものが有するエネルギーと考えることもできます」

零点エネルギーは、波動性に由来する

「ちなみに、固体の零点エネルギーの合計は、絶対零度における内部エネルギーであることから、これが『零点エネルギー』という言葉の由来となったそうです」