クライン−ゴルドン場のハミルトニアンの式変形の方針
今まで武者さんの存在をすっかり忘れていた。俺は、彼女のステルス能力に再び戦慄した。
イージス艦の強力なレーダー網でも、彼女の存在を探知するのは困難に違いない。
「原点に戻るって、どういうことなの? 大和?」
一宮が問いかけると、武者さんは、読みかけていたディラックの量子力學を閉じて立ち上がった。
「生成・消滅演算子の
にマイナスの符号がついたそもそもの経緯は、(2.25)式および(2.26)式を、(2.27)式および(2.28)式に置き換えたことから始まる」
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(2.25)
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(2.26)
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(2.27)
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(2.28)
「これらの式の大きな違いは、右辺の第2項の生成演算子の
の符号がプラスからマイナスに変わるとともに、その係数である指数関数
の符号がマイナスからプラスに変わることにある。だから、下のクライン−ゴルドン場のハミルトニアンの式で、この逆変換をして、
の符号をマイナスからプラスに符号を戻してやればいい」
「なるほど。その手があったか」
彼女の方針は、まるでステルス攻撃機の誘導爆弾のように的確だった。この方針ならいけるかもしれない。
「さすがは大和、冴えるわね! 闇雲にゴリ押しで計算するどこかの誰かさんとは大違いね」
一宮の褒め言葉兼悪口を聞いて、越野さんがうなだれた。
こいつはこういうネチネチした、ナパーム爆弾でじわじわ焼き殺すような攻撃を好む。どこまで性根が腐った奴なんだ?