スーパーサイエンスガール

日々科学と格闘する理系高校生達の超絶難解な日常。

無限大の零点エネルギーの海

「ここで、クライン−ゴルドン場のハミルトニアンについて考察してみます」


{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\mathcal{H}&=&\int d^3 x\int\frac{d^3p d^3p'}{(2\pi)^6}e^{i{({\bf{p}}+{\bf{p}'})\cdot\bf{x}}}\bigg\{-\frac{\sqrt{\omega_{\bf{p}}\omega_{\bf{p}'}}}{4}
\big(a_{\bf{p}}-a_{-\bf{p}}^{\dagger}\big)\big(a_{\bf{p}'}-a_{-\bf{p}'}^{\dagger}\big)\\
&+&\frac{-{\bf{p}}\cdot{\bf{p}}'+m^2}{4\sqrt{\omega_{\bf{p}}\omega_{\bf{p}'}}}
\big(a_{\bf{p}}+a_{-\bf{p}}^{\dagger}\big)\big(a_{\bf{p}'}+a_{-\bf{p}'}^{\dagger}\big)\bigg\}\\
&=&\int\frac{d^3p}{(2\pi)^3}\omega_{\bf{p}}\bigg(a_{\bf{p}}^\dagger a_{\bf{p}}+\frac{1}{2}[a_{\bf{p}}, a_{\bf{p}}^\dagger]\bigg).
\end{eqnarray}
}
(2.31)

「(2.31)式3行目の右辺第2項は、下の(2.29)式の関係からデルタ関数の原点における値 \delta(0)に等しいことがわかります」


{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
[a_{\bf{p}}, a_{\bf{p}'}^\dagger]&=&2\pi^3\delta^{(3)}({\bf{p}}-{\bf{p}'}).
\end{eqnarray}
}
(2.29)

ディラックによれば、デルタ関数は、 x\neq0のとき \delta(x)=0であり、かつ、 \int_{-\infty}^\infty dx=1を満たす関数と定義されます。全体の面積が1であり、x=0でのみ0でない値を持つということは、原点におけるデルタ関数の値が \delta(0)=\inftyとなるということを意味しています」

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「この原点での値 \delta(0)=\inftyとは、Heisenbergの不確定性原理を反映した量子的な数(q-数(quantum number))ではなく、古典的な単なる数(c-数(classical number))です。それゆえ、(2.31)式3行目の右辺第2項の値は、零点エネルギー \omega_p/2を全ての運動量のモードについて単純な和をとったものとなります。これは、エネルギーの最低状態が無限であることを意味します」
 一宮がいかにも胡散臭そうな目で越野さんを見つめた。
「エネルギーの最低状態が無限? それじゃ、この宇宙は無限のエネルギーに満ちていることになるじゃないの!」
「計算の上ではそうですが、幸いなことに、このような無限のエネルギーシフトは、実験的に検知することはできません。なぜなら、実験においては、ハミルトニアン \mathcal{H}基底状態からのエネルギーの差しか測定することができないからです」

エネルギーの最低状態(零点エネルギーの総和)は無限大のエネルギーを有する
 ↓
しかし、実験的にはエネルギーの最低状態からの差のみしか測定できないので問題ない

「零点エネルギーは、いわば『底なしの海』のようなものです。その海は無限の深さをもちますが、私達はその無限の深さを直接測定することはできず、海面からの高さしか認識することができないのです」

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「それゆえ、全ての計算において、この無限のエネルギーの定数項を無視することにします。もちろん、基底状態のエネルギーシフトが、理論においてより深いレベルの問題を生み出すことはありえます。この問題については、終章で述べるそうです」