空間的な伝搬粒子のクライン‐ゴルドン場の振幅の導出1
「次に、x-yが純粋に空間的な場合、すなわち、の場合を考えてみます。このとき、(2.50)式より振幅は次のようになります」
(2.50)
「ちょっと待ってよ! どうして指数関数の肩の符号がマイナスじゃなくて、プラスになってるのよ!」
一宮が、もの問いたげな目をして、越野さんに詰め寄った。
「これは普通の内積ではなくて、4元ベクトルの内積を考えているためです。4元ベクトルでは、時間成分の符号はプラスになりますが、空間成分の符号はマイナスになるため、指数関数の肩の符号のマイナスと4元ベクトルの空間成分の符号とが打ち消しあって、プラスになるのです。だから、これは計算間違いではありません」
一宮は押し黙ってしまった。当てが外れたのか、悔しそうな表情を浮かべている。
どうせまた、ハーバード大学卒の教授のくせに計算間違いをしていたとか、鬼の首をとったようにいうつもりだったんだろう。
ハーバード大学卒の教授の圧倒的な計算力の前では、しょせん女子高生など、無力な存在にすぎないということを骨の髄まで噛みしめるといい。
悔しそうに唇を噛みしめる一宮の姿を見て、俺は内心悦に入った。