スーパーサイエンスガール

日々科学と格闘する理系高校生達の超絶難解な日常。

散乱において電子の質量を無視できる場合

ファインマン則とファインマン・トレース技術は、とてもパワフルなので、単純化の仮定をいくつか緩めることもできる。例えば、電子の質量が無視できるという仮定がある。なぜなら、電子はミュー粒子より200倍も軽いため、ビームエネルギーがミュー粒子を作ることができるときはいつでも、電子の質量は無視できるほど小さいものと考えられるから」

ミュー粒子の静止質量は、 105.6 [{\rm MeV/c^2}]
電子の静止質量は、 0.511 [{\rm Mev/c^2}]
 ↓
電子は、ミュー粒子より約206.7倍も軽い
ミュー粒子の質量と比べると、電子の質量の寄与が無視できる

「それゆえ、ビームエネルギーがミュー粒子の質量よりもそれほど大きくないときは、すべての予想は、 m_\mu/E_{\rm cm}の比率に依存するものと考えられる」
「つまり、電子の質量は無視できるから、ミュー粒子の質量 m_\muと重心エネルギー E_{\rm cm}の比だけ考えればいいってわけね」
 一宮の言葉に、武者さんは頷いた。
「でも、ファインマン・トレース技術を用いると、ミュー粒子の質量を計算に取り入れることが極めて容易になる。このテキストの著者によれば、代数計算の量は約50%だけ増加するそう」

ミュー粒子の質量を計算に取り入れる
 ↓
代数計算の量は約50%だけ増加する

「約50%? なによ、そのアバウトな数字は?」
 一宮はいかにも胡散臭そうな目で、武者さんを睨み付けた。
「私はただの解説者だから、私に文句をいっても仕方がない。文句なら直接著者に言うべき」
「ほんと、むかつくわね」
 怒りを向ける相手がいないためか、一宮がいらついた顔をした。
「ちなみにミュー粒子の質量を考慮して計算をすると、振幅と断面積との間の関係を示す(1.1)式は、わずかに修正されるとのこと」

散乱の微分断面積:
{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\frac{d\sigma}{d\Omega}=\frac{1}{64\pi^2E_{\rm cm}^2}\cdot|M|^2 \, (1.1)
\end{eqnarray}
}

「ちなみに、ミュー粒子の質量を考慮した場合は、セクション5.1で詳細に計算するらしい」