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スーパーサイエンスガール

日々科学と格闘する理系高校生達の超絶難解な日常。

散乱とは

「ところで、『微分断面積』ってなに?」
「人に頼ってばかりいないで、少しは自分で考えたらどうだ」
「あんたって、ほんと性格悪いわね。こんなにか弱くて健気なレディーが困っているのをほうっておくわけ?」
 お前のどこがか弱くて健気なレディーなんだ?

 そのとき、部室の扉が開いて、可愛らしい女の子が入ってきた。越野(こしの)さんだ。
「あ、木花(このは)ちゃん。いいところに来たわね」
 越野木花(こしのこのは)さんは、俺たちよりも1年上の高校2年生だ。それゆえ実際には、俺たちの先輩に当たるが、天真爛漫な性格と童顔のせいで、俺たちより年下にしか見えない。あどけない笑顔と愛らしい瞳が特徴的な美少女で、まっすぐで純粋な性格で思わず守ってやりたくなる上に、胸のサイズがとびきり抜群なこともあって、男子の間ではかなりの人気で、越野さんをひそかに狙っている男子も多い。それだけでなく、越野さんファンクラブも結成され、越野さんの写真はプレミアが付いて学校の内外で法外な値段で取引されているそうだ。もちろん、俺も越野さんの隠れファンなのはいうまでもない……。

「一宮さんに万羽さん、そんなところで何をしているんですか?」
 越野さんは、年下である俺たちにさえも、なぜか敬語を使う。
「あのね。この馬鹿が『微分断面積』がさっぱり分からないっていうから、このあたしが特別にレクチャーしてやっていたのよ!」
真っ赤な嘘をいうな!
 俺は思わず叫び声をあげた。

「あんた開きなおる気? ほんと、こんないいかげんな奴だから困るのよ。自分の知識不足を棚にあげて、なんでも人のせいにするんだから。こういうのは、自力で解決してなんぼのものじゃない?」
「そうですか。一宮さんも大変ですねえ」
一宮に同情する越野さん。だめだ、完全に信じ込んでしまっているじゃないか!
「おい!」
 俺が激しく突っこむと、一宮は、『なんか文句ある?』という顔つきで思い切りガンをとばしてきた。

「ふたりとも喧嘩はいけないです!」
「仕方ないわね。今回は木花ちゃんに免じて特別に許してあげるわ!」
「それはこっちの台詞だ!」
「喧嘩しちゃいけないって、いってるじゃないですかあ!」
 越野さんが涙目になって哀願する。俺は仕方なく一宮と一時停戦することにした。一宮とはいずれはサシで決着をつけねばなるまい。

「ところで、木花ちゃん。『微分断面積』についてちょっと説明してほしいんだけど」
「私なんかの説明でよろしければ……」
 越野さんは両手の人差し指の指先を合わせ、自信がなさそうにモジモジした。
「全然問題ないわ! それじゃ、決まりね!」
 越野さんに抱きつく一宮。どさくさにまぎれて一宮は両手で越野さんの豊満な胸を鷲づかみにした。

「きゃっ! どこ触ってるんですか? 一宮さん!」
「いいじゃない。触って減るもんじゃないし。それに、こんなに大きかったら、胸のほうから『触ってくれ』っていってるようなものじゃない!」
 お前はセクハラオヤジか! この変態女子が!

「そんな……めちゃくちゃです」
 越野さんは、恥ずかしさのあまり、赤面してうつむいたまま、一宮にされるがままになっていた。


 やがてセクハラ遊びに飽きたのか、一宮は切り出した。
「ねえ、越野ちゃん。そもそも微分断面積って何なのよ?」

 越野さんはしばし考え込んだ。
「そうですね。微分断面積について説明する前に、まず『散乱(さんらん)』についてお話したほうがよいと思います」
「散乱?」
「散乱は、もともとある方向に進んでいた波が障害物にぶつかったときに、それを中心にさまざまな方向に拡がっていく現象をいいます」

散乱(さんらん)とは
ある方向に進んでいた波が障害物にぶつかったときに、それを中心にさまざまな方向に拡がっていく現象

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「つまり、散り散りになっていろんな方向に乱れるから『散乱』と呼ぶわけね。でも、いま考えている現象って、波じゃなくて、粒子の衝突じゃないの?」
 そういって一宮は、ホワイトボードに描かれた図を指し示した。

図1.1
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「それはですね。量子力学で扱うような微視的な粒子は、波としての性質を有することから、このような微視的な粒子の衝突によって粒子の進む方向が曲げられる現象も散乱と呼ぶのです」

量子力学で扱う微視的な粒子は波としての性質を有する
 ↓
微視的な粒子の衝突によって粒子の進む方向が曲げられる現象も散乱と呼ばれる

「つまり、粒子の衝突といっても、ミクロの世界では波として振る舞うから、散乱という言葉を用いるわけね」