スーパーサイエンスガール

日々科学と格闘する理系高校生達の超絶難解な日常。

コーシーの積分定理とは

「ここで、実際に停留値を求めてみましょう。微分が変化率を表すことに注目すると、停留値は、位相関数 f(p)=px-t\sqrt{p^2+m^2}を運動量pで微分したときにゼロになる値に相当します」


{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\frac{df(p)}{dp}&=&x-\frac{2pt}{2\sqrt{p^2+m^2}}=x-\frac{pt}{\sqrt{p^2+m^2}}=0\\
\therefore\, x&=&\frac{pt}{\sqrt{p^2+m^2}}
\end{eqnarray}
}

「この式を運動量pについて解くと、停留値が求められます」


{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
x\sqrt{p^2+m^2}&=&pt\\
x^2(p^2+m^2)&=&p^2t^2\\
p^2(x^2-t^2)&=&-m^2x^2\\
p^2&=&\frac{-m^2x^2}{x^2-t^2}\\
p&=&\frac{imx}{\sqrt{x^2-t^2}}
\end{eqnarray}
}

「したがって、位相関数f(p)は、 p=imx\sqrt{x^2-t^2}で停留値を有することが分かります」
 ここで、越野さんは少し困った顔をして黙り込んだ。
「どうしたのよ?」
「すみません。ここから先の計算がちょっと分からなくて……」
「よく分からないって、どういうこと?」
「このテキストには、『We may freely push the contour upward so that through this point』と書いてあるのですが、その意味がよく分からないんです」
 越野さんは唇を噛みしめながら俯いた。
「だめじゃないの!」
 一宮が叱責する。自分は何もやってないわりには、よくそこまで他人を叱れるもんだな。どういう頭の構造をしているんだ、こいつは。

「仕方ありませんね。それなら僕が説明しましょう」
 爽やかな笑顔を振りまきつつ、石原が前髪を片手でかき上げながらいった。
「すみません」
 越野さんがほっとした表情で礼をいうと、石原は白い歯を見せて笑った。。
「いえ、レディーが困っているんです。『紳士』として当然のつとめですよ」
 そういって、流し目で俺の顔をちらりと見た。なんか、無性にむかつく野郎だな。

 石原はホワイトボードの前に立ち、俺たちをゆっくりと眺め回した。
「『contour』というのは、複素平面内の閉曲線のことをいいます」
複素平面?」
「テキストの『freely push the contour upward』という言葉は、周回積分積分路を自由に変形できることをいっているのだと思います。ほら、複素積分におけるコーシーの積分定理を知っているでしょう?」
「コーシーの積分定理? そんなの高校生が知るわけないじゃないの!」
 一宮がぶっきらぼうに言うと、石原の微笑む唇が少しだけ引きつった。
「仕方ありません。それでは、コーシーの積分定理について簡単におさらいしましょう」

コーシーの積分定理
関数f(z)が単一の閉曲線CとCの内部を含む領域で正則であるとき、閉曲線C上の線積分が0になる

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\oint_Cf(z)dz=0
\end{eqnarray}
}

積分記号 \intの中の○の記号は、閉曲線C内の周回積分を表します。ここで、ある領域D内のすべての点で関数f(z)が微分可能であるとき、関数f(z)は領域Dで正則であるといいます」

ある領域D内のすべての点で関数f(z)が微分可能であるとき、関数f(z)は領域Dで正則

「コーシーの積分定理は、下図のように、複素平面上の閉曲線C内の領域を1周するような、正則な関数f(z)の積分は、つねに0になるという定理です」

f:id:Dreistein:20150101062441p:plain

「なお、f(z)が正則である限り、この閉曲線Cはどのような形であっても構いません。いいかえれば、任意の形の閉曲線Cに対して成り立ちます」

「どうして積分すると0になるのよ?」
 一宮がシャープペンを指先で弄びながら訊ねた。
「これは僕の想像ですが、微分可能な滑らかな関数において、ちょうど一筆書きのようにループすると、積分の値がプラスマイナスゼロになって元の状態に戻るからなのだと思います。ただし、閉曲線Cの中に微分可能でない特異点z=aがあるときは、積分は0にはなりません。その場合、特異点の数だけ余分な値が出てくるので注意してください。これは、コーシーの積分公式として知られています」

コーシーの積分公式
関数f(z)が単一の閉曲線CとCの内部を含む領域で正則であり、特異点aがCの内部にあるとき、次の式が成り立つ。

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\frac{1}{2\pi i}\oint_C\frac{f(z)}{z-a}dz=f(a)
\end{eqnarray}
}

「このように、複素平面上の閉曲線C上の周回積分積分がゼロになるのは、閉曲線C内で関数f(z)が滑らかな場合にのみ限られます」