ヒルベルト空間とユニタリ演算子
「ところで、ローレンツ変換は、量子状態のヒルベルト空間において、ユニタリ演算子として実行されます」
「ヒルベルト空間?」
一宮が首を傾げた。
「私たちの住む現実世界の空間は、3次元ユークリッド空間(Euclidean space)であると考えられています。このユークリッド空間を複素数に拡張したのがユニタリ空間(unitary space)と呼ばれます。また、ユークリッド空間またはユニタリ空間を無限次元に拡張したのが、ヒルベルト空間(Hilbert space)と呼ばれます」
ユークリッド空間(Euclidean space)(n次元の実数空間)
(現実世界の空間は、3次元ユークリッド空間)
↓ 複素数に拡張
ユニタリ空間(unitary space)(n次元の複素数空間)
ユークリッド空間・ユニタリ空間
↓ 無限次元に拡張
ヒルベルト空間(Hilbert space)(無限次元の実数・複素数空間)
「以上の関係を図に表すと、次のようになります」
「量子状態は、複素数で記述され、また、取りうる量子状態は、無限の状態を取り得るため、量子力学の数学的構成には、ヒルベルト空間が採用されています」
「要するに、ヒルベルト空間って、考えうるなかで一番広い空間というわけね」
「逆に考えると、私たちの住む3次元ユークリッド空間は、かなり特別な空間であると考えることもできます。これはちょうど、広大な宇宙の中で、地球が特別な環境を有するように、私達の住む3次元空間も特別な環境であるといえるのです」
「それじゃ、ユニタリ演算子って何よ?」
「ユニタリ演算子(unitary operator)は、ヒルベルト空間における変換において、距離を同一に保ち(等距離性)、かつ、変換後の要素には、必ず変換の元となる要素が存在する(全射性)という2つの性質を満たす演算子のことです」
ユニタリ演算子(unitary operator):
ヒルベルト空間における変換で、以下の性質を満たす演算子
(1)距離を同一に保つ(等距離性)
(2)変換後の要素には、必ず変換の元となる要素が存在する(全射性)
「それゆえ、何かを回転させたり、平行移動させたりするような演算子は、ユニタリ演算子であるといえます。ローレンツ変換は、4次元世界における『回転』に相当するため、ローレンツ変換の記述にユニタリ演算子が用いられるのです」