スーパーサイエンスガール

日々科学と格闘する理系高校生達の超絶難解な日常。

次元解析とは

「次元解析?」
 武者さんは頷いた。
「1つの物理量は、長さ・時間・質量といった基本的な物理量の単位を組み合わせて表現することができる。例えば、質量M、長さL、時間Tとすれば、エネルギーの次元は、 ML^2/T^2と表される。一方、運動量の次元は、 ML/Tと表され、エネルギーと運動量は、次元が異なる。だから、(2.19)式の次元を計算すれば、どちらがエネルギー流束で、どちらが運動量密度かが明らかになる」

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
P^i=\int T^{0i}d^3x=-\int \pi\partial_i\phi d^3x,
\end{eqnarray}
}
(2.19)

「このような次元解析を用いれば、計算間違いを手軽にチェックすることができる」

次元解析
ある物理量を基本的な物理量の単位の組み合わせで表現して解析する手法。計算間違いを手軽にチェックすることができる

「なるほど、その手があったか」
 俺が頷くと、武者さんは残念そうに頭を振った。
「でも、今回は次元解析は使えない」
「使えないって、どういうこと?」
 一宮が問いつめる。
「次元解析は一般的には有効な手法だけど、この場合は有効じゃない」
 武者さんはホワイトボードの前まで歩いて行くと、マーカーペンを手にとった。
「(2.19)式において、4元ベクトルの微分演算子 \partial_\muが使われているけど、これは光速度 cを用いて次のようにかける」

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
\partial_\mu&=&\frac{\partial}{\partial x^\mu}=\bigg(-\frac{1}{c}\frac{\partial}{\partial t}, \frac{\partial}{\partial x}, \frac{\partial}{\partial y}, \frac{\partial}{\partial z}\bigg)
\end{eqnarray}
}

「ここで、(2.17)式のエネルギー・運動量テンソル T^\mu_{\,\,\nu}の式から、それぞれ T^0_{\,\,i} T^i_{\,\,0}を計算してみる」

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
 T^\mu_{\,\,\nu}&\equiv&\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\phi)}\partial_\nu\phi-\mathcal{L}\delta^\mu_{\,\,\nu}.
\end{eqnarray}
}
(2.17)

「すると、 T^0_{\,\,i}は次のようになる」

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
 T^0_{\,\,i}&=&\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_0\phi)}\partial_i\phi-\mathcal{L}\delta^0_{\,\,i}\\
&=&\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_0\phi)}\partial_i\phi
\end{eqnarray}
}

「ここで、 \partial_0\phi \partial_i\phiの次元はともに[1/m]で同じだから、これらが打ち消しあって、結局 T^0_{\,\,i}の次元は、ラグランジアン \mathcal{L}の次元と同じになる。また、 T^i_{\,\,0}も同様に、ラグランジアン \mathcal{L}の次元をもつことがわかる」

{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
T^i_{\,\,0}&=&\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_i\phi)}\partial_0\phi-\mathcal{L}\delta^i_{\,\,0}\\
&=&\frac{\partial \mathcal{L}}{\partial(\partial_i\phi)}\partial_0\phi
\end{eqnarray}
}

「だから結局、エネルギー・運動量テンソルの式を次元解析したところで、どちらがエネルギー流束で、どちらが運動量密度かはわからない」
「ダメじゃないの!」
 一宮が失望したように叫んだ。
「そういうことも、たまにはある」
 武者さんはぶっきらぼうにそういうと、興味をなくしたかのように、また元の席に戻ってDiracの『量子力學』を開いた。