共役運動量とは
「ラグランジュ形式の場の理論についてお話した後は、ハミルトン形式の場の理論についてお話します。ラグランジュ形式の場の理論は、全ての式があらわにローレンツ不変であるため、特に相対論的力学に適していますが、このテキストでは、第1部を通してハミルトン形式の場の理論を用います。というのも、ハミルトン形式の場の理論によって、量子力学への移行が簡単になるからです。ここで、それぞれの力学的変数qの共役(きょうやく)運動量が(ここで、
)で表されることを思い出してください」
「共役運動量? そんなの知らないわよ」
一宮のぶっきらぼうな言葉に、越野さんは一瞬戸惑った。
「ちょっと共役運動量について、3分で分かりやすく説明してくれない?」
一宮は乱暴に足を組みながら、ワンマン社長が平社員に説明を求めるような、思いっきり上から目線の口調で越野さんに命令した。
「そんな……3分だなんて……」
越野さんはおろおろと一宮の顔を見返した。どうしてそこまで上から目線になれるんだ、お前は? ただの女子高生だろ?
越野さんはしばらく考え込み、やがて説明を始めた。
「ラグランジアンLは、(運動エネルギー)−(ポテンシャルエネルギー)という話は、以前しましたよね。例えば、3次元の直交座標の場合、ラグランジアンLは、次のように書くことができます」
「ここで、ラグランジアンを
で偏微分すると、
となって、x方向の運動量に等しいことがわかります。そこでこれを拡張し、一般化座標qについて、ラグランジアン
を
で偏微分したものを運動量と定義することにします。このように定義された運動量を『一般化運動量』と呼びます」
一般化運動量
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「上の式を見てください。一般化運動量は、ラグランジアンLを介して一般化座標
と対になった量と考えることもできます。そのため、一般化運動量は、『共役運動量(conjugate momentum)』とも呼ばれます」
「『共役』って何よ?」
「『共役』とは、一般に『互いに結びついた2つのもの」という意味があります」
共役:互いに結びついた2つのもの
「『共役』はもともとは、『共軛』と書いて、『軛(くびき)を共にして車を引く』という意味があります。これは、2頭立ての馬車や牛車などにおいて、2頭の馬や牛の後首に横木を結びつけて車を動かすことをいいます。この横木を『軛(くびき)』と言い、『共役』の『役』の本来の意味です」
2頭の牛の後首に取り付けられた軛(くびき)の一例
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「ここで、ラグランジアンLを軛(くびき)と考え、一般化座標と一般化運動量
を軛(くびき)に結びつけられた2頭の牛と考えると、共役のイメージがつかみやすいと思います」
一般化(共役)運動量
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ラグランジアンL→軛(くびき)
一般化座標と一般化運動量
→軛(くびき)に結びつけられた2頭の牛
「つまり、ラグランジアンLを介して一般化座標と対応関係にある運動量だから、共役運動量と呼ぶわけね」
一宮が満足そうに頷いたのを見て、越野さんはほっとしたような表情になった。