正準運動量密度の導出
「クライン−ゴルダン方程式は、量子力学的な波動方程式ではなく、古典的な波動の振る舞いをあらわすマクスウェル方程式と同様に『古典的』な場の方程式です。ところで以前、場に共役な正準運動量密度
は、次のように定義されることをお話しました」
「一方、ラグランジアンは、次のように書けます」
「このラグランジアンを
に代入すると、
となります」
「ねえ、ちょっと変じゃない?」
「何がおかしいのですか?」
一宮は、ほとんどテキストの頁に顔を押しつけるようにして、テキストを凝視していた。
「この行を見てよ!」
超絶難解な某テキストから一部抜粋
一宮の意図が分からず、俺たちは皆、ぽかんと一宮を見つめていた。
「だから、何が言いたいんだお前は?」
「まだ分からないの? あんたって、ほんと目が悪いのね」
「目が悪くて悪かったな!」
「しょうがないわね……。それじゃよく見て! この式の部分を思い切り拡大すると、こんな風になるわ!」
そういって、一宮は両手を伸ばし、俺の顔に押しつけるように思いっきりテキストを近づけてきた。
「ほら! よく見て! 『運動量密度』を表すのに、どこにも時間微分を表すドット()が
の上に書いてないじゃないの! これは立派な間違いよ!」
一宮は、勝ち誇ったように胸を張った。
「それは多分、誤植だと思いますけど……」
越野さんは、どう対処したらよいか分からないような、戸惑った顔をしていた。
お前という奴は、他人の『揚げ足とり』になると、ほんとうに無駄なまでに勘が働くな……。その能力をもう少し建設的な方向に使えないのか?