スーパーサイエンスガール

日々科学と格闘する理系高校生達の超絶難解な日常。

テイラー展開の直観的なイメージ

「教科書みたいな天下りの説明はもうたくさんだわ! そもそもどうして、テイラー展開マクローリン展開みたいな関係が成り立つのよ?」

テイラー展開(Taylor expansion)
{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
f(x)&=&\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(x-a)^n}{n!}f^{(n)}(a)\\
&=&f(a)+f^{(1)}(a)(x-a)+\frac{1}{2!}f^{(2)}(a)(x-a)^2+\cdots+\frac{1}{n!}f^{(n)}(a)(x-a)^n+\cdots
\end{eqnarray}
}

マクローリン展開(Maclaurin expansion)
{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
f(x)&=&\sum_{n=0}^{\infty}\frac{x^n}{n!}f^{(n)}(0)\\
&=&f(0)+f^{(1)}(0)(x)+\frac{1}{2!}f^{(2)}(0)(x)^2+\cdots+\frac{1}{n!}f^{(n)}(0)(x)^n+\cdots
\end{eqnarray}
}

「それは難しい質問ですね……」
 一宮の質問に、越野さんはしばし考え込んだ。
テイラー展開マクローリン展開の違いは、 x=aを起点としているか、 x=0を起点としているかの違いにすぎません。両者は基本的には同じものなので、ここではより単純なマクローリン展開について説明します。ここで、車でドライブする場面を想定してみてください」
「車でドライブ? いきなり何の話よ?」
 一宮は首を傾げた。
「この車は、時刻 t=0(秒)にスタート地点を出発し、時刻 t(秒)には距離 f(t)(m)だけ走るものとします。ここで、微小時間 \delta tだけ経過したとき、車がスタート地点からどれだけの距離を進んだかを調べてみます。このとき、距離 f(t)は、次のようにマクローリン展開することができます」


{ \displaystyle
\begin{eqnarray}
f(\delta t)&=&f(0)+f^{(1)}(0)\delta t+\frac{1}{2!}f^{(2)}(0)\delta t^2+\cdots+\frac{1}{n!}f^{(n)}(0)\delta t^n+\cdots
\end{eqnarray}
}

「ここで、右辺の第1項 f(0)は、車が進む距離 f(t)にスタート時の時刻 t=0を代入したときの値なので、スタート時の車の位置を表します」

右辺第1項 f(0)の意味:スタート時の車の位置

「それじゃ、右辺の第2項はどういう意味よ?」
「右辺の第2項は f^{(1)}(0)\delta tですが、 f^{(1)}(t)は、車が進む距離f(t)の1階の時間微分、すなわち、車が進む速度を意味します。ここで、(速度)×(時間)=(距離)の関係が成り立つことに注目すると、右辺の第2項は、スタート時(t=0)の車の速度 f^{(1)}(0)で微小時間 \delta tだけ進んだとき、 車が進む距離を表します」

右辺第2項 f^{(1)}(0)\delta tの意味:
スタート時(t=0)の車の速度 f^{(1)}(0)で微小時間 \delta tだけ進んだとき、 車が進む距離

「つまり、右辺の第2項は、スタート時(t=0)に車が毎秒V(m)の速さで走っていたとすると、微小時間 \delta t(秒)後には、車がスタート地点から V\delta t(m)の地点にいるだろうという、『スタート時の車の速度から見積もった車が進む距離』を表します」
「待ってよ! それっておかしくない? 仮に、 \delta t=1秒であるとして、1秒後も車がスタート時(t=0)と同じ速度V[m/s]で走っているなんて保証、どこにもないじゃないの! 1秒後に車が毎秒V(m)から毎秒100V(m)まで急加速していたら、全然違った結果になるんじゃないの?」

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 一宮の疑問に越野さんは頷いた。
「そうならないようにするために、右辺の第3項では、加速度も考慮に入れます。ここで、第3項の f^{(2)}(0)は、スタート時の車の速度の時間変化、すなわち、車の加速度を表します。第3項には、 \delta tの2乗の項がかかっていますが、これは、(加速度)×(時間) ^2=(距離)の関係からもわかるように、加速度を距離に置き換えているからです。つまり、右辺の第3項は、スタート時(t=0)の車の加速度 f^{(2)}(0)\deltaで微小時間 \delta tだけ進んだとき、車が進む距離の変化分を表します」

右辺第3項 \frac{1}{2!}f^{(2)}(0)\delta t^2の意味:
スタート時(t=0)の車の加速度 f^{(2)}(0)\deltaで微小時間 \delta tだけ進んだとき、車が進む距離の変化分

「右辺の第3項は、『スタート時の車の加速度から見積もった車が進む距離の変化分』を表します。それゆえ、スタート時(t=0)から車が加速したとしても、第3項まで考慮することによって、車が進む正確な距離を予測することができるというわけです」
 一宮は、きつねにつままれたような顔をしていた。
「それじゃ、スタート時(t=0)で車が急加速した直後に、車が急停止したらどうするのよ?」
「その場合は、加速度が変化する場合に当たりますよね。加速度が変化する場合は、右辺の第4項 \frac{1}{3!}f^{(3)}(0)\delta t^3に相当します。右辺の第4項は、スタート時(t=0)の車の加速度の変化 f^{(3)}(0)で微小時間 \delta tだけ進んだとき、車が進む距離の変化分を表します」

右辺第4項 \frac{1}{3!}f^{(3)}(0)\delta t^3の意味:
スタート時の車の加速度の変化 f^{(3)}(0)\deltaで微小時間 \delta tだけ進んだとき、車が進む距離の変化分

「このように、スタート時(t=0)の車の速度だけでなく、スタート時の車の加速度、車の加速度の変化、車の加速度の変化の変化、……といった、高次の変化の寄与を無限に考慮することによって、スタート地点から微小時間 \delta t後に車が進む距離を正確に予測することができます。これを任意の関数 f(x)の場合に一般化したのが、マクローリン展開であり、テイラー展開なのです。以上が、テイラー展開の直観的なイメージです」