正準交換関係とは
「このテキストでは、(が古典場である)古典的な方程式から始め、一度の手続でそれを量子化します。ここで、古典的なクライン−ゴルドン方程式を量子化するため、場と運動量密度を演算子として取り扱い、適切な交換関係を課します。1以上の粒子の離散的な系では、交換関係は次のようになることを思い出してください」
「交換関係って何よ?」
一宮が訊ねる。
「前回、量子化とは、巨視的(マクロ)な物理量や式を微視的(ミクロ)な物理量や式に置き換えることだと説明しましたよね。ここで、巨視的(マクロ)な物理量(qは一般化座標、pは一般化運動量)を『classical number(古典的な数)』の頭文字をとって『c数』と呼び、運動量pを演算子に置き換えた微視的(ミクロ)な物理量を『quantum number(量子的な数)』の頭文字をとって『q数』と呼びます」
c数(classical number。古典的な数):巨視的な物理量
↓ 量子化(巨視的な物理量から微視的な物理量への置き換え)
q数(quantum number。量子的な数):微視的な物理量
「ここで、巨視的(マクロ)な物理量であるc数は、位置qと運動量pを入れ替えて引き算してもゼロになります」
「ここで、上式の左辺の角括弧の式は、『交換子(commutator)』と呼ばれ、次のように定義されます」
「位置qと運動量pを入れ替えて引き算したらゼロになるって、当たり前じゃないの?」
一宮が首を傾げた。
「一見、当たり前のように思われるのですが、微視的(ミクロ)の世界になるとそうでもないのです。実際、微視的(ミクロ)な物理量であるq数は、位置演算子と運動量演算子を入れ替えてもゼロにならず、(はディラック定数)というお釣りの数が出てくるのです」
「このような関係を『正準交換関係(canonical commutation relation)』と呼びます。実は、前回Schrodingerの波動方程式を導いた際に」
「という置き換えを行いましたが、この置き換えは、上の正準交換関係を満たします。そこで、上のような置き換えを一般化して、巨視的(マクロ)な物理量を正準交換関係を満たす(正準)演算子とに置き換えることによって量子化の手続を行うことができます」
「でも、どうしてお釣りの数が出てくるのよ?」
「この正準交換関係は、物理的には、Heisenbergの不確定性原理に対応しています」
「Heisenbergの不確定性原理?」
「Heisenbergの不確定性原理は、微視的(ミクロ)の世界では、粒子の位置qと運動量pを同時に決定できず、一方の量を測定すると、もう一方の量が不確定になることを表す原理です」
Heisenbergの不確定性原理
微視的(ミクロ)の世界では、粒子の位置qと運動量pを同時に決定できず、一方の量を測定すると、もう一方の量が不確定になる
「この位置qと運動量pの不確定さによって、正準交換関係で位置qと運動量pを交換して引き算してもゼロにならず、お釣りの数が現れるのです」