ローレンツ変換とローレンツブーストの違い
「次に、規格化について考えてみます」
「規格化って何よ?」
一宮が口を尖らせた。
「『規格化(normalization)』というのは、ベクトルに適当な定数をかけて、ベクトルの長さ(『ノルム(norm)』と呼びます)を1にする操作をいいます」
『規格化(normalization)』:ベクトルに適当な定数をかけて、ベクトルの長さ(『ノルム(norm)』)を1にする操作
「例えば、真空状態を表すベクトルの場合、となるように、真空状態を規格化するのが自然であるといえます」
真空状態の規格化:
「また、真空状態と同様に、1粒子状態もかなりしばしば現れるので、規格化のための規約を採用する価値があります。でも、(多くの教科書で使用されている)一番簡単な規格化は、ローレンツブーストに対して不変ではありません」
「ちょっと待って! ローレンツブーストって、ローレンツ変換とどう違うのよ?」
一宮がいきなり片手を伸ばして、待ったのポーズをした。
越野さんは一瞬、困惑したような表情を浮かべた。
「ローレンツブースト(Lorentz boost)というのは、2つの慣性系に直交座標系x, y, zおよびx', y', z'をそれぞれ軸が互いに平行となるようにとり、x, x'の軸の方向が相対運動の方向、相対運動の速さをv、両座標系の時間をt, t'としたとき、次のような式で表されるような変換をいいます」
x方向へのローレンツブースト(Lorentz boost)
「また、『ローレンツ変換(Lorentz transformation)』は、ローレンツブーストに空間座標系のみの回転を加えたものです。ローレンツ変換は、4次元空間において、距離()を不変に保つような変換であり、ローレンツブーストも距離を不変に保つ変換となります」
「それゆえ、ローレンツブーストは、ローレンツ変換の一種であるといえます。私達が読んでいるこのテキストのような海外の教科書では、ローレンツ変換とローレンツブーストの区別が明確になされていますが、日本の教科書の場合、これらの区別がなされていないことが多いので、注意して読み進める必要があります」