Clebsch-Gordan係数とは
「次に、電子と陽電子のスピンの合成を考えると、のClebsch-Gordan係数があらわれる」
「くれぶすごるだん……係数?」
一宮が首を傾げる。
「Clebsch-Gordan係数は、角運動量を合成する際に得られる係数。ここで、電子および陽電子のスピン角運動量の大きさはそれぞれ、だから、それらのz方向のスピン角運動量の大きさはそれぞれ、となる。ここで、は右回りのスピンをあらわし、 は左回りのスピンをあらわす」
図1.3
「電子のスピン角運動量と陽電子のスピン角運動量を合成した角運動量の大きさをとし、合成角運動量のz方向の大きさをとすると、合成角運動量の状態ベクトルは、例えば、がをあらわすとして、次のようにかける」
「この合成角運動量の状態ベクトルのやなどの展開係数をClebsch-Gordan係数と呼ぶ。いま考えている系では、電子と陽電子がいずれも進行方向に対して右回りのスピンを有することから、それぞれのz軸方向のスピン角運動量が互いに打ち消し合ってゼロになる。そこで、の状態ベクトルの寄与だけを取り出せばいい」
「古典的には、Clebsch-Gordan係数を求めるだけで十分だけど、相対論を考慮すると、4次元のローレンツ群で角運動量を足し合わせることになるため、スピンだけでなく、ローレンツ変換の特性を考慮に入れなければならない。このテキストによれば、反対称テンソルとスカラーの重ね合わせはゼロになるため、4元ベクトルを質量のないフェルミ粒子の状態に結合させるClebsh-Gordan係数はゼロになるとのこと」
「反対称テンソル?」
一宮が訊ねる。
「反対称テンソルについては、後で説明するとのこと。とりあえず、ここでは反対称性があるため、平均値をとるとトータルでゼロになると理解しておくといい」
「よくわからないわね」
「テキストが後で説明するといってるんだから仕方がない」
一宮は顔を真っ赤にして憤慨した。
「まったく、肝心のところを後回しにするなんて、とんでもない著者ね。そんないいかげんな説明で読者が納得できるわけないじゃない。はっきりいって読者をなめてるわね。どこかでこのテキストの著者に出会うことがあったら、フル●ンにして木の上から逆さ吊りにしてやるわ」
おいおい。仮にも女子高生が『フ●チン』などという、はしたない言葉を使うんじゃない。
そんな一宮の憤慨ぶりも、まるでどこ吹く風といったように、武者さんは続けた。
「結局、振幅はゼロになり、始状態または終状態の全スピン角運動量が0となる他の組み合わせ、すなわち、始状態または終状態のスピンの組み合わせが、またはのいずれかになる他の11の振幅もゼロになる。それゆえ、ゼロにならない振幅は、次の4つの場合に限られる」