スカラー場とは
「結局、ハミルトニアンは、を使って、次のように書くことができます」
「この式を連続的に表現すると、次のようになります」
(2.5)
「ここで、は、ハミルトニアン密度と呼ばれます。なお、テキストによれば、このセクションの最後で、ハミルトニアン密度の式を別の方法で再導出するそうです。ここで、簡単な例として、単一場の理論について考えてみます。単一場は、次のようなラグランジアンに従います」
(2.6)
「ちょっと、どうしていきなりそんな形が出てくるのよ?」
一宮が訳が分からないといった顔をして訊ねた。
「ラグランジアンは、(運動エネルギー)−(位置エネルギー)の形で表しますが、これは形式的に考えると、(微分の2次を含む項)−(微分を含まない逆符号の項)と考えることもできます。前者を運動項、後者をポテンシャル項と呼びます」
「そして、運動項はさらに、(時間による微分の項)と(空間による微分の項)の2種類の項に分けられます」
「その結果、(2.6)式が導かれるのです。ここで、は単なる係数と考えてください。また、も係数ですが、このmは、質量と解釈されます。これについては、セクション2.3で扱うとのことです」
「それじゃ、どうしてポテンシャル項が場の1次の項じゃなくて、2次の項なのよ?」
「それは、場の対称性を考えているからです。対称性を考えると、1次の場としては、プラスの場とマイナスの場の両方が均等に現れます。だから、1次の項を考えると、これらプラスの場とマイナスの場が相殺して消えてしまいます。一方、2次の場の場合、マイナスの場の2乗もプラスになるので、2次の項は相殺せずに残ります。実際には、2次の項だけでなく、4次、6次、8次……と偶数の項が全て残りますが、場が小さいものと仮定して、4次以降の項は、2次の項に対して無視できるものと近似して考えているのです」
「ねえ、さっきから思うんだけど、このテキストの著者って、ちょっと説明を省略しすぎじゃない? こんな説明で、読者がついて行けるとでも思っているのかしら?」
一宮が憤慨した。
それについては、俺も同感だな。とはいえ、量子力学や相対性理論についてある程度の予備知識がないと、このテキストを最後まで読み通すのは困難だろう。もっとも、さすがの著者も、よもや一宮のような何の予備知識もないただの女子高生が、場の量子論のテキストをガチで読む時代が来るとは、まったく想定していなかったとは思うが……。
「ところで、場は、『スカラー場(scalar field)』とも呼ばれます」
「スカラー場?」
「スカラー場とは、空間の各点に物理的な量が1つ1つ対応したような場です」
スカラー場:空間の各点に物理的な量が1つ1つ対応したような場
「先のゲームの例でいえば、ディスプレイの各画素に1つ1つの色の情報が対応することに相当します」